SDGsが叫ばれる現代社会。さまざまな業界でリサイクルや環境意識が重要課題になるなか、7月1日、和楽器の箏(こと)の演奏家がXに投稿した“箏を活用したハンガーラック”の画像が、SNS上で議論を巻き起こしていた。
発端は、ある演奏家の投稿したポストだ。タワーレコード渋谷店に置いてあったというハンガーラックは、箏が向かい合わせに縦置きで固定され、それぞれに穴を開けて間にポールをわたしたもの。ポールには多数のTシャツがかけられており、演奏家がXに、
《渋谷タワーレコードでこれ見た瞬間声にならない声で悲鳴あげてしまった
インバウンド用のディスプレイなんでしょうけど、公開処刑か晒し首を見せられているような重苦しい痛みを感じてしまう箏弾きにはキツすぎる、、、、》(原文ママ)
という悲しみのコメントともに、“箏ラック”の写真を投稿すると、箏が“ただの木材”として使用されているかのような造りに、《楽器吹きとして許せない》《琴知らない人から見てもアウトすぎる》(原文ママ)など、演奏家の心情を理解する声が多数上がった。一方で、《捨ててしまうよりかはマシかと…》《使えない楽器は捨てないとダメなんかな》といった擁護派の意見も数多く寄せられ、賛否が渦巻く議論に発展。当該ポスト3000万以上の閲覧回数、1.7万リポスト(7月8日現在)と大きな注目を集めた。
もちろん現実問題として、箏のなかには処分される運命をたどるものもあるだろう。ただし今回批判の声をあげる人たちの主張は、
《そのまま使うことに、なんのメッセージ性も機能美も感じない》
《再利用するにも、もう少しやり方、見せ方に配慮が感じられれば違って見えたかもしれない》
《箏を使わなくてもできるような用途に、箏にボルト打ち込んで転用するっていう、その文化への配慮のなさを、こともあろうに音楽に関係するレコード店がやってしまうのが哀しいし寂しい》
など、再利用する行為そのものではなく、“箏の扱い方”を憂えているようだ。「PRやディスプレイにおいて、楽器を音楽以外の目的で使う際には細心の注意が必要」と言うのは、大手広告代理店社員である。
「楽器は魂がこもっているものや“分身”のように捉える人は多く、リスペクトがないように見える扱いには厳しい目が注がれます。最近楽器の扱いで炎上した例としては、昨年5月にApple社が公開したiPadProのCM動画があります。
ピアノやギターなどの楽器類のほか、絵の具、カメラなどが巨大なプレス機で次々に破壊された後、板の上に、まるで破壊されたものたちの機能が全部備わっていることをアピールするかのようにiPadが現れるという動画でした。多機能さをうたう演出と思われましたが、Apple社もメーカーなのに物を大切にしていないとして世界中で批判が殺到。なかでも多くの楽器が潰される映像に対する音楽ファンの反発は強く、Apple社が謝罪する事態となりました」
今回の“箏ラック”は破壊ではなく“再利用”したものであり、楽器を扱う人のなかでも意見は分かれたが、タワーレコード渋谷店では、炎上を重く捉えたのか、当該投稿の翌日となる7月2日には撤去していることがXユーザーにより報告された。
そもそもハンガーラックに琴を再利用した背景には何があったのか。その経緯や意図について、タワーレコードに話を聞いた。