■髪の悩みに寄り添い、脱毛や眉毛ケアなどカット以外のメニューも

 ひとつは、施術内容の専門化や差別化です。白髪をぼかすハイライトや、髪の悩みに寄り添うカウンセリング型のサービスなど、単なるカットやカラーだけでなく、プラスアルファの満足感を提供することでリピーターを獲得しようとする動きが見られます。

 情報発信の強化も鍵を握る要素です。SNSを活用し、施術例や顧客の声、使用している薬剤の特徴などを積極的に発信することで、新規顧客の獲得につなげる工夫も広がっています。こうした発信が、“この店にしかない価値”としてブランド力を形成する材料になっているのです。

 一方で、収益構造を見直す動きも活発化。店舗での施術だけに依存せず、イベントや撮影、ブライダルなど外部案件で売り上げを確保するサロンも増えてきました。

 他にも、顧客層を明確に絞ったサービスも注目されています。たとえば男性専用や個室型など、プライベート空間を重視したスタイルは一定の需要を捉え、値上げ後も顧客離れが起きにくいとされています。さらに、カットと合わせて脱毛や眉毛ケアなど複数のメニューを組み合わせることで、客単価の維持にもつながっているようです。

 徹底的なコストカットによる低価格化も加速中です。自動シャンプーやセルフレジの導入によって人件費を抑え、シンプルなメニュー構成で短時間かつ高回転を狙う店舗は、忙しいビジネスパーソンや、価格に敏感な利用者にとって魅力的な存在といえるでしょう。カットのみを提供する格安美容室も全国に拡大しており、利用頻度を増やしたい層から重宝される傾向にあります。

 また、ラグジュアリー路線を打ち出す美容室も存在感を高めています。インドやスリランカ発祥の伝統医学であるアーユルヴェーダの技術を用いたヘッドスパなど、高価格でも“非日常”の体験を提供するサービスは、美容室を「癒しの場」として利用したい層にとって魅力的な選択肢。日本人のみならず、外国人観光客にとっても訪日の目的になるほど注目を集めているようです。

「美容室は今、価格帯・サービス内容・空間づくりのすべてにおいて“分岐点”に立っています。安さを追求するか、特化するか、癒しの場を提供するか。求められるのは、自分たちの強みを見極め、それを顧客にどう届けるかという視点です。SNSや口コミを通じた情報発信、顧客との丁寧な対話、そして柔軟な収益モデルの構築。どれかひとつではなく、総合力が問われる時代に入ったと感じています」(生活情報サイト編集者)

 美容室の淘汰が加速するいま、生き残りのカギは“個性”と“信頼”。価格だけでは測れない価値をいかに創造し、伝えられるかが問われているのではないでしょうか。

トレンド現象ウォッチャー・戸田蒼
大手出版社でエンタメ誌やWEBメディアの編集長を経てフリー。雑誌&WEBライター、トレンド現象ウォッチャーとして活動中。