■現役内科医が解説する“50~60代男性の激やせ”で想定される病気

 元木氏は健康なのだろうが、実際に50~60代の男性が急に激やせをした場合、どのような病気が想定されるのか。鉄医会理事長であり、ナビタスクリニック川崎の院長でもある内科医・谷本哲也氏が、以下のように答えてくれた。

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「もちろん元木さんのことではなく一般論としてですが、50~60代の男性が急激に痩せた場合、まず、真っ先に思いつくのはがんですよね。がんが進行して痩せる。体重が減少する原因はいろいろありますが、原因不明の急激な痩せの場合は、まずがんを疑うのが医療界の常識ですね」(谷本氏、以下同)

――がんにも肺がんや大腸がんなどさまざまながんがあると思いますが。

「最初に疑うのは、胃がんや大腸がん、すい臓がんといった、消化器系のがんが多いですね。

 あと、この年代ですと、糖尿病で痩せてしまう人もいます。糖尿病の初期から痩せるのではなく、放置して進行した場合、糖分が尿として排出されて、痩せてしまうんです。ですから、病院にかかっていない方が急に痩せたら、糖尿病も鑑別に入ります。

 また、この年代特有ではないですが、バセドウ病に代表される甲状腺機能亢進症も、代謝亢進によっていくら食べても痩せてしまうんです。バセドウ病患者は、どちらかと言えば中高年男性より若い女性の方が多いのですが」

――食欲不振によって痩せるのでしょうか?

「がんの場合は食欲が減退することもありますが、パセドウ病の場合は、代謝亢進によって、むしろ食欲が高まります。

 糖尿病の場合は、そこまで食欲は落ちないことも多いのですが、進行すると腸の動きも含め全体的に調子が悪くなり、疲労や口の渇きなどの症状も出ます。“食欲不振”は、真っ先にがんの可能性を考える必要がありますね。

 それから、食欲不振による痩せの場合、うつ病などメンタル系もあり得ます」

――肉体ではなく、メンタルの不調で痩せることも?

「先日も、原因不明の急激な体重減少で、いろいろ検査をしたけど異常が確認できなかった患者さんがおられました。結局、その人が痩せた原因はうつ病だったんです。

 あと、中高年に限りませんが、潰瘍性大腸炎とか、クローン病とか、胃腸の免疫異常による病気も、痩せる理由として考えられます。腸の粘膜がおかしくなって、栄養が吸収されず、痩せてしまうんです。さらに言えば、結核みたいな、感染症でも痩せることはありますね」

――結核は昔の病気というイメージもありますが。

「日本は意外とまだ結核はちょこちょこあるので、それで痩せるケースもなくはないですね。もちろん、現在はがんや糖尿病の方が数としては多いですが」

――まとめると、50~60代が急激に痩せる、というのは、がんや糖尿病のケースが多いということでしょうか。

「一番多いのは、そうでしょうね。医療機関とすれば、まずその可能性を考えて検査を進めることになりますね。

 ちなみに、元木さんは自主的に痩せたそうですが、最近は『GLP-1』というやせ薬が有名で、それで痩せたお医者さんや、イーロン・マスクのような海外のセレブも多いんですよ」

――どういう薬なんですか?

「もともとは糖尿病の薬なんですが、食欲を抑えて10キロ以上痩せることもできる薬です。世界中で流行っていて、日本でも使っている人がだいぶ増えています」

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 元木氏は問題ないのだろうが、年齢の近い人がダイエットもしていないのに激やせした場合、そうした病気を警戒した方がいいのかもしれない――。

谷本哲也(たにもと・てつや)
鉄医会理事長、ナビタスクリニック川崎院長。日本内科学会認定総合内科専門医・日本血液学会認定血液専門医・指導医。
1997年、九州大学医学部卒業。国立がんセンター中央病院、鳥取大学病院等を経て、2012年よりナビタスクリニック勤務。2023年まで福島県の(公財)ときわ会常磐病院で東日本大震災後の地域医療にも協力した。診療成果等を論文化する「谷本勉強会」を主宰し、世界的医学専門誌に多数発表している。