■子どもの体へのリスクや教員格差も

 また、身体面への影響も無視できません。長時間の画面視聴によって視力低下、目の疲れ、姿勢の悪化、肩こりや頭痛を訴える子どもが増えており、ブルーライトによる睡眠障害のリスクも指摘されています。加えて、教員側の負担も深刻です。

 パソコンやタブレットなどの情報通信技術(ICT)を使った教育には、専門的な知識や教材設計のスキルが求められます。しかし、十分な研修が行き届かないまま導入された結果、現場では教師によって教え方に大きなばらつきが見られ、「本来の教育に集中できない」との声も上がっているそう。

 こうした課題を受けて、日本でも紙の教科書や手書きのノート、音読や対話を重視する“アナログ教育”が再び評価されつつあります。もちろん、デジタルには動画や図解を活用した可視化、即時フィードバック、個別学習支援など多くの利点がありますが、「誰に、いつ、どのように使うか」を見極めるバランス感覚が不可欠。タブレットはあくまで学びの手段の一つであり、すべてを代替するものではありません。子どもたちの発達段階や個性に応じて、多様な学習方法を柔軟に組み合わせることが求められています。

「タブレット学習の現場では、『勉強したつもりになる』『思考力が落ちる』『達成感が得にくい』『目が疲れる』といった問題点が指摘されています。子どもに合わせてデジタルとアナログの良さをバランスよく使うことができれば最良なのでしょうが、学校側が使用の判断を子どもに任せた結果、『ただの連絡帳』になってしまっているとの報告もあるようです」(教育関係者)

 ネット上でも、《現場が十分に理解していないまま文科省がスタートを切ってしまい、結果的に子どもたちが不利益を被っている》《先生に慣れてもらって解決するには、あまりに負担が大きすぎて無理がある》《機材の整備だけでなく、専門知識を持った支援員を配置すべきだ》といった批判的な声が相次いでいます。

 かつて未来の学びとして期待されたタブレット教育。しかし、今重要なのは子どもの成長や発達にしっかりと寄り添い、最適な学びの環境をどう設計していくかという視点です。世界的なアナログ回帰は一過性の流行ではなく、教育現場の実態と深く結びついた必然的な動きと言えるでしょう。

 国の教育方針によって子どもたちの学びの質や将来が大きく左右される以上、一度導入したからといってそのまま進み続けるのではなく、柔軟に軌道修正していく姿勢がますます求められていきそうです。

トレンド現象ウォッチャー・戸田蒼
大手出版社でエンタメ誌やWEBメディアの編集長を経てフリー。雑誌&WEBライター、トレンド現象ウォッチャーとして活動中。