■デマ情報の温床になりやすいTikTokの「特殊性」
ITジャーナリストの三上洋氏は、デマ情報の温床になりやすいTikTokの特殊なプラットフォーム性を指摘する。
「まず、情報拡散の背景として、TikTokは、フォロワーが少なくてもショート動画をバズらせることができるというアルゴリズムであることは大きいでしょう。
YouTubeやインスタグラムの場合、フォロワーがある程度多くないと再生数や閲覧数は伸びません。しかしTikTokは極端な話、“フォロワーがゼロ”でも一定数表示される仕組みになっているんです。これは、初心者救済およびコンテンツの多様化のために、運営サイドが意識してやっていることです」(三上氏=以下同)
つまりTikTokであれば、フォロワーの少ない怪しげなアカウントのデマ動画であっても、それが多くの人に視聴される可能性があるというわけだ。
「多くの人が目にするTikTokの“おすすめ”に表示されるためには、再生される秒数が関係してきます。TikTokのユーザーは、次々と流れてくるショート動画をおもしろかったらある程度見て、おもしろくなかったらさっさと飛ばすという行動を繰り返すわけですが、視聴された秒数が長い動画については、TikTok側が“ユーザーが興味を持った“と判断し、おすすめに表示されやすくなる。
では、どういう動画がユーザーの興味・関心を集めるかというと、いわゆる“告発系”や“○○の裏側”系です。芸能人のスキャンダルやバイトテロ、飲食店の異物混入、あるいは“浮気をされた”“こんなひどい目にあった”といったものです」
刺激的なショート動画がバズるのは理解できるとしても、デマ情報が拡散されてしまうのは悪質だ。三上氏は「TikTokには、そういった動画を規制する仕組みが不十分」であることを問題視する。
「たとえばYouTubeの場合、動画の内容に対する運営の監視もシビアであり、不適切な内容や著作権侵害の動画を通報する仕組みもあります。また、これまでネット上でバズる際の舞台となってきたXについても、デマ情報には他のユーザーから指摘が入ることが多いほか、匿名で背景情報を追加できる『コミュニティノート』という機能もあります。
しかし、TikTokは現在、デマ情報やフェイク動画を検証する体制も仕組みも不十分で、無法地帯。さらに、ユーザーの年齢層が比較的低いということもあり、冷静に考えれば嘘だとわかる情報やAIで作った動画なども許容されてしまいやすい。その結果、TikTokでまわってくる動画について一部のユーザーは内容を深く考えず、視聴する。しかも、ひとつの動画がバズると、類似動画が次々と湧いてきて、その内容がどんどん拡散されていきます。
TikTokは、デマが誕生しやすいだけでなく、それが広まりやすい土壌があるのです」
ショート動画という形で、さまざまな情報をキャッチするツールとして親しまれているTikTokの闇。デマ情報やフェイク動画を規制するシステムの導入が求められる。
三上洋
東京都世田谷区出身、1965年生まれ。都立戸山高校、東洋大学社会学部卒業。テレビ番組制作会社を経て、1995年からフリーライター・ITジャーナリストとして活動。文教大学情報学部非常勤講師。
専門ジャンルは、セキュリティ、ネット事件、スマートフォン、Ustreamなどのネット動画、携帯料金・クレジットカードポイント。