■ファンが荒れた2つの理由

 ファンがここまで荒れている理由は、大きく分けて2つ。

 1つは、過去に“オダギリが『クウガ』を黒歴史扱いしている”というデマが長らく横行していて、それがまた蒸し返されそうになる内容だったから。確かに、当時のオダギリには「リアルな芝居がやりたくて俳優になったから、特撮はやりたくない」というポリシーがあり、実際に『クウガ』の前年に『救急戦隊ゴーゴーファイブ』(1999年)のオーディションを受けた際、それを理由に“変身ポーズ”を拒否してつまみ出された、という実話がある。そのためにデマが広まったと考えられるが、オダギリは『クウガ』を黒歴史として扱ったことはない。

 そしてもう1つは、ファンの間では、オダギリはむしろ『クウガ』を現在も大切に扱ってくれていることが、広く知られている。

 まず前提として、『仮面ライダークウガ』は、オダギリが苦手意識を持っていた、当時の世間が認識していた“変身ヒーロー”とは大きく違う。徹底的なリアルにこだわっていて、ドラマパートでは“お約束”を極力減らしていて、“なぜライダーキックで爆発するのか”“なんで怪人は総攻撃を仕掛けず1体ずつしか出ないのか”などに細かな理由づけがされている。『仮面ライダー』という単語も劇中に存在せず、徹底して”クウガ”か”未確認生命体第4号”という呼び名が用いられた。

 キャストの演技も、特撮特有のオーバーな演技ではなくリアリティ重視で、まるで刑事ドラマかと見紛うほど。変身ポーズも、じっくり溜めての「変……身!」ではなく、短く「変身ッ!」と叫ぶ感じで、この言い方は平成ライダーの定番にもなった。

 番組を担当した高寺成紀プロデューサーは『語ろう!クウガ アギト 龍騎』(カンゼン)にて、オーディション合格後も出演を渋るオダギリに「あの(従来の)『仮面ライダー』ではなく、むしろ違うものにしたいと思っているから、力を貸してほしい」と説得したことを明かしている。

 そういった経緯もあるため、『クウガ』はオダギリにとって現在も大切な作品であり、当時のキャストやスタッフと飲み会を行なうこともしばしば。『クウガ』で相棒・一条薫を演じた葛山慎吾(53)とドラマ『オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ』(NHK/21年9月)で再会した際には、『クウガ』を象徴する“サムズアップ”を決めたツーショットを番組公式インスタグラムに投稿したこともある。

 そして、そんな『仮面ライダークウガ』をオダギリは現在も大切にしていることが、今年に入ってから話題になったばかりでもあった。

 オダギリは、『仮面ライダークウガ』25周年を記念し、今年6月から全国で開催中のイベント『超クウガ展』の展覧会ナビゲーターとして、当時のスタッフとの対談パートつきの音声ガイドを担当。同ガイドでオダギリは、『クウガ』の現場を経験していなかったら全く違う役者人生になっていた、というニュアンスのコメントを残している。

 さらに極めつきは、『超クウガ展』の図録に収録されている「全話感想メモ」。単純計算で19.6時間弱もある『クウガ』本編全49話を視聴したうえで、オダギリが自分の演技を中心に1話ずつ詳細に解説したメモが掲載されているのだ。俳優活動だけでなく9月26日公開の映画『THE オリバーな犬、 (Gosh!!) このヤロウ MOVIE』ではオリバー役と監督、脚本、編集を務めるなど多忙なオダギリがそこまでの時間をかけてくれた――それだけ、作品に愛着があるということだろう。

 語る機会が少ないだけで、現在も『クウガ』をリスペクトしているであろうオダギリ。それだけに、“オダギリの中で黒歴史”だと誤解を招きかねない記事に、多くのファンが怒ってしまったようだ――。

特撮ライター・トシ 
幼少期に『仮面ライダーアギト』を観て複雑なシナリオに「何かとんでもないモノがスタートした!」と衝撃を受ける。その後、歳を重ねても熱量は衰えず『クウガ』から始まる平成仮面ライダーシリーズと現在も歴史が続く令和ライダーはすべて履修し、『スーパー戦隊シリーズ』、平成以降の『ウルトラ』シリーズも制覇済み。『仮面ライダーゴースト』の主人公の決め台詞でもある「俺は俺を信じる!」を座右の銘に仕事に全力全開。