■元キー局プロデューサーが“背景”を解説 スポンサー受けと視聴率「抱き合わせ」2つのメリット

 なぜ日本テレビは、5か月前に批判が巻き起こったやり方を、しかも今度はより視聴者が多いGP帯で行なうのか――元テレビ朝日プロデューサーの鎮目博道氏は、“抱き合わせ放送”の実情をこう解説する。

「まず言えるのは、人気番組――今回で言えば、『上田と女が吠える夜』と“抱き合わせ”にすることで、テレビ局はスポンサーにセールスしやすくなるんです。本来なら別々の番組を“同じ放送枠内での番組”という形にすることで、スポンサーにCM枠を買ってもらいやすくなる。人気番組の力を借りることで、営業セールスがしやすくなるんです。局側の収益の都合を考えれば、賢いやり方だと言えますね」(鎮目氏、以下同)

『上田と女が吠える夜』は、テレビ界が重視している若年層の数字であるコア視聴率(13~49歳の個人視聴率)が好調。5%近いコア視聴率を取り、他局を圧倒している。関連番組である『DEEPに吠える夜』も同じく人気の番組。この人気番組の放送枠という形にすることで、セールスをかけやすくする、ということか。

「そういったセールス面に加えて、“ザッピング(※チャンネルを頻繁に切り替える行為)対策”も狙っていると考えられます。テレビ局は人気番組の終了直後に他局にチャンネルを変えられるのを嫌がりますからね。今回のように人気番組とドラマの初回をセットにすることで、“ついでに見てみよう”という視聴者が増えて、それによって視聴習慣がついて第2話以降を見てくれるかもしれませんよね。

 それに、データ上は“初回から高視聴率だった”という印象を残せる可能性も上がります。局にとってはメリットが多いんですよ」

 視聴者からは“録画しにくい”など不満の声が多い抱き合わせだが、鎮目氏は「局側からすると、録画視聴者はマイナスでしかないんですよね……」と言い、シビアな裏側をこう話す。

「テレビ局にとって、“客”は視聴者なのか、スポンサーなのかは難しい話ですが、番組を録画視聴する人は途中のCMを見ることなくスキップしますよね。そうなるとCMの意味をなさないため、スポンサーも喜ばない。だから、局からすれば、リアルタイム視聴か、せめてCMつきの見逃し配信・TVerで視聴して欲しいのが本音なんです。

 さらに言うと、録画で番組を見ている視聴者から“録画しづらい”というブーイングが出ても、局としてはスルーしたい、というところではないでしょうか」

 新ドラマ『ESCAPE』の放送枠である水耀夜10時台は、若年層に絶大な人気を誇る『水曜日のダウンタウン』(TBS系)が裏で放送していることもあり、日テレは苦戦を強いられている。

 先の7月期には、広瀬すず(27)主演で社会現象級の大ヒットを記録した映画『ちはやふる』3部作(2016年~18年)の正統続編で當真あみ(18)主演のドラマ『ちはやふる―めぐり―』が放送されたが、最終回(9月10日)の視聴率は世帯3.9%(関東地区/ビデオリサーチ調べ)、個人2.2%、コア1.6%。大ヒット映画の続編とは思えないほどの低調で終わってしまった。

 秋ドラマ『ESCAPE』は、人気バラエティ番組『上田と女が吠える夜』のパワーを借りて、多くの視聴者を獲得できるだろうか――。

鎮目博道
テレビプロデューサー。92年テレビ朝日入社。社会部記者、スーパーJチャンネル、報道ステーションなどのディレクターを経てプロデューサーに。ABEMAのサービス立ち上げに参画。「AbemaPrime」初代プロデューサー。2019年独立。テレビ・動画制作、メディア評論など多方面で活動。著書に『アクセス、登録が劇的に増える!「動画制作」プロの仕掛け52』(日本実業出版社)『腐ったテレビに誰がした? 「中の人」による検証と考察』(光文社)