■SixTONES楽曲メロディー使用中止騒動――鉄道専門家の見解

 今回、話題となっている「音鉄」とは具体的にどのような活動をしている人をいうのか。そして、今回の件とのかかわりは――小サイトは、鉄道関係の著書やコラムを数多く手掛ける鉄道ライター・杉山淳一氏に話を聞いた。

 まず“音鉄”の実態について、杉山氏はこう説明する。

「音鉄とは、鉄道に関するあらゆる音を収集する“音のコレクター”です。昔からSL(蒸気機関車)や電車、ディーゼルカーの走行音を録音する人たちがいました。かつてはデンスケ(リール型テープレコーダー)を担いでいましたが、その後、小型カセットレコーダー、ICレコーダーへと小型低価格化して人口を増やしました。

 最近は機材価格の低下もあって動画の人が増えていますが、音鉄も一定数います。録音対象は車掌さんの車内放送や駅メロディへと広がっていますね」(杉山氏、以下同)

 今回のSixTONESの楽曲による発車メロディは、すでにYouTubeほかSNSで広く拡散されているが、これも“音鉄”界隈ではよくあることのようだ。

「録音データは1人で楽しむ人が多いと思いますが、YouTubeに掲載する人もいます。つまり、音鉄には“録音鉄”のほかに“聴き鉄”も居るということですね。品質を上げるために、機材や周辺機器にお金をかける人もいます。

 ですが、動画ではなく、音のために自撮り棒を使うかというと、少数派なのかと。そして、ほとんどの音鉄は静かに、邪魔にならないように楽しんでいますが……マナーを守らない、危険行為に及ぶ人もいますね。その辺は撮り鉄と一緒ですね」

 また現在、JR東日本では、各駅のレパートリー豊かな発車メロディーを廃止して「IKSTシリーズ」と呼ばれる標準発車メロディーを導入する動きがあることから、杉山氏は「こうした背景の中で、女性に人気のアーチストの駅メロディは希少価値だと思います」と分析。

 その上で、今回の騒動をこう分析する。

「鉄道ファンのなかにSixTONESのファンがどれだけいらっしゃるか……珍しいからなんでもいいのかもしれませんが、もしかすると鉄道ファンではないSixTONESのファンが、鉄道の駅という環境の危険度を知らずに……という可能性もあるのかもしれません。

 というのも、いままで“音鉄の暴走”は、ほとんどニュースにはなってないんですよ。いままさに“IKST変更ブーム”で、音鉄も活躍中のはずなんですが」

 そして、危機管理の専門家にも指摘されていたJR東日本の危機管理については、

「JR東日本の安全運行に対する危機管理は厳格ですが、旅客対応に対する危機感は甘いと思います。駅に殺到する撮り鉄問題も真剣に取り組んでいません。

 列車の進行を妨害したり、乗客に危害が予想されるときは、直ちに警察導入、立件、逮捕すればいいのに、と常々思っています。今は抑止力が働いていない状態です」

 と語り、こう続けてくれた。

「ただ、(今回のケースは)想像を超える出来事だったと思います。まるで戦国時代の槍部隊のように自撮り棒担ぎが来るなんて」

 ということだった。

 ちなみに杉山氏は、騒動になってしまったSixTONESのタイアップ曲『Shine withU』には、「良い曲ですね。旅立ちたくなります」と絶賛している。

 鉄道とSTARTO社グループとのコラボを巡っては、TOKIO(25年6月25日に解散)がJR東海とタイアップした楽曲『AMBITIOUS JAPAN!』が有名だ。当初はキャンペーン用のCMソングとして期間限定で使用する予定だったが、予想以上の反響から、2003年11月から23年7月まで、20年近くJR東海が保有する新幹線車両の車内チャイムに使われていたことで知られる。

《TOKIOみたいになるのかと思ってたのに》《TOKIOみたいに長く続いて欲しいと願っていたのに…残念》といった声も多い今回の騒動。いずれにせよ、ルールやマナーを破り、他の乗客や駅で働く方々に迷惑をかけることは言語道断。そうした非常識な人たちの迷惑行為によって、今後多くの人たちが楽しめたはずのものがなくなってしまった――。

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
東京都生まれ。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社でパソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当したのち、1996年にフリーライターとなる。IT、PCゲーム、Eスポーツ、フリーウェア、ゲームアプリなどの分野を渡り歩き、現在は鉄道分野を主に執筆。鉄道趣味歴半世紀超。2021年4月、日本の旅客鉄道路線完乗を達成。