■現在、日曜劇場に映画主演級俳優が起用されるワケ
かつて、フジテレビの月9では“トレンディドラマ”が大流行したこともあり、恋愛ものが主流だった。しかし近年では、クールごとに全く違うジャンルの作品が放送されるように。
今年の作品でも、清野菜名(31)主演で消防局の通信指令センターが舞台の『119 エマージェンシーコール』(1月期)、小泉今日子(59)と中井貴一(64)による大人の恋愛ドラマ『続・続・最後から二番目の恋』(4月期)、福原遥(27)主演で児童相談所が舞台の社会派作品『明日はもっと、いい日になる』(7月期)、現在放送中の沢口靖子(60)主演の警察もの『絶対零度〜情報犯罪緊急捜査〜』――主演俳優のファン層も含め、狙っているであろう視聴層が作品ごとにバラバラに感じられる。
そんな月9と対極的な立ち位置にあるとされるTBSの日曜劇場。芸能評論家の三杉武氏は、こう分析する。
「最近の連ドラは、漫画原作の恋愛作品やコミカルな作品などが多い。そうしたこともあって女性視聴者を中心に考えている感じもしますよね。それが悪いとは言いませんが、日曜劇場は対照的。多額の制作費をかけた重厚な作品が多いですし、確かに一貫して男性ウケを狙っている感じもあります。ただ、俳優や作品の雰囲気は、昔と少し変わったとも言えそうです」(三杉氏、以下同)
日曜劇場は昔から重厚な作品も多かったが、現在と比べると2000年代はカジュアルな感じもあった。たとえば『鉄板少女アカネ!!』(06年10月期)の主演は、当時18歳の堀北真希(37)。『パパとムスメの7日間』(07年7月期)は、主演こそ舘ひろし(75)だが、内容は中身が入れ替わってしまった“パパと娘”の日常を描いたハートフルコメディで、娘役は新垣結衣(37)だった。
同枠主演最多の木村の作品も、若い頃は『ビューティフルライフ』(00年1月期)や『GOOD LUCK!』(03年1月期)など若者向けの作品が多かったが、近年では『グランメゾン東京』(19年10月期)など、大人向けで重厚な雰囲気の作品が増えた。
日曜劇場の作風が現在のような路線になったのは、『半沢直樹』(13年版)が最終回世帯視聴率42.2%(関東地区/ビデオリサーチ調べ)を叩き出すなど、爆発的な大ヒットを収めた成功体験が大きいとも言われている。
「俳優に関して言えば、堺雅人さんや阿部寛さんなど、大作映画でも主演を張れそうな人が多く起用されるようになった感がありますよね。若い俳優でも、『御上先生』(25年1月期)主演の松坂桃李さん(37)、『アトムの童』(22年10月期)主演の山崎賢人さん(31)といった映画をメインに活躍したり、日本アカデミー賞を受賞していたりと、俳優として“格”のある人が多い。STARTO社タレントも、木村さんや松本さん、二宮さんなど、演技派として通っている人ばかりですよね。
主題歌を担当する歌手も、『ザ・ロイヤルファミリー』では玉置浩二さん(67)、『19番目のカルテ』ではあいみょんさん(30)など、一流シンガーの起用が目立ちます」
近年はテレビ離れが進んでいることもあり、民放各局では“放送外収入で稼ぐ”という動きが活発化していると言われ、それが映画主演級俳優の起用にもつながっているのかもしれない。
というのも、日曜劇場の作品は映画化されることが多く、前述のように『TOKYO MER』シリーズは映画第3弾の制作が発表済み。木村主演の『グランメゾン東京』の劇場版作品『グランメゾンパリ』(24年12月末公開)は興収41.5億円を叩き出している。来夏に放送されると見られている『VIVANT』の続編も、連続ドラマ放送後に劇場版が公開されるという報道もある。
「そんななか俳優からしても、日曜劇場の主演、メインキャストに選ばれるのはキャリアとして箔がつくことになっていますよね。テレビ離れが進んで地上波ドラマにも逆風が吹いているだけに、現在も日曜劇場のがブランド力をしっかりと保っているのはすごいことではないでしょうか」
メインターゲットをぶらさずに、重厚に作られていく日曜劇場。今はさらに、劇場版への展開、大手配信サービスを通して海外への展開も行なわれており、そうなると同枠で主演を張れる俳優は限られてくるのかもしれない――。
三杉武(みすぎ・たけし) 芸能評論家
早稲田大学を卒業後、スポーツ紙の記者を経てフリーに転身。豊富な人脈をいかし、芸能評論家として活動している。多くのニュースメディアで芸能を中心にしたニュース解説を行ない、また「AKB48">AKB48選抜総選挙」では“論客”とて約7年間にわたり総選挙を解説してきた。