■時代の流れに逆行も……「大食い番組をやめられない事情」を元キー局Pが解説
SDGsとは「持続可能な開発目標」の英語での略称で「17の目標」と「169のターゲット(具体目標)」で構成されている。17の目標には「貧困をなくそう」「飢餓をゼロに」というものもあり、大食い番組や大食い企画はSDGsに逆行しているとも言えるようだ。
2023年3月には「日本の高校生を元気にする!!」を掲げるメディア『高校生新聞 ONLINE』に、自分自身は食べることが大好きにもかかわらず、「テレビ番組の大食いチャレンジ企画に違和感を覚えるようになりました」という高校生記者の“主張”が掲載されたことも一部で話題を呼んだ。
高校1年生だという記者は、違和感を覚える理由は3つあるとし、1つ目に「大盛りの料理を苦しそうに食べる姿は見ていて気持ちよくない」、2つ目に「食材を無駄にしているように見える」、3つ目に「SDGsに逆行している」と指摘していた。
SDGsを推進しているテレビ各局がいまだに大食い番組や大食い企画を続けている理由について、元テレビ朝日プロデューサーの鎮目博道氏はこう解説する。
「過去には大食い番組の真似をして亡くなった人がいたこともあり、大食い番組はたびたび問題視されてきました。
そんな大食い番組や企画をやるにあたり、制作サイドは食べ物を粗末にしないことにかなり気を遣っているんです。大食い番組ではなく旅番組や料理番組でも《残りはスタッフが美味しくいただきました》とテロップを入れるぐらいですからね。日本人は食べ物を粗末にすることに特に嫌悪感を抱くんです。
また、大量に食べすぎると体調を崩す人も出てきますが、テレビ番組でそんな危険なことを放送して視聴者に被害が及ぶことも制作サイドは恐れています。そういった事情もあり、テレビマンの間でも大食い番組をやることに抵抗感はあるんです」(鎮目氏、以下同)
それでもテレビ各局が大食い番組や大食い企画を“やめられない事情”があると鎮目氏は明かす。
「食べることに関心がない人はいませんし、大食いやデカ盛りは誰にでもわかりやすく簡単に驚いてもらえますからね。若年層向けの番組はシニア層は見ませんし、シニア層向けの番組は若年層に見られません。世代関係なく刺さるコンテンツはなかなか生み出せないなか、大食いやデカ盛りは誰にもわかりやすく、テレビ向けのコンテンツでもあるんです。
大食いさえやってればある程度、視聴率が読めるんです。クレームが入る恐れもありますが……《この人たちは食べるのが大好きで自発的にやっているんですよ》や《たくさん食べることにも支障ありませんが、みなさんは真似しないでくださいね》というスタンスで制作されるんですよね。さらに、残り物はスタッフ食べるとも強調するなど、“二重の言い訳”をしながら大食い番組が続いていると。
番組制作サイドもSDGsや人に無理をさせないといった時代の流れに逆行していることには気づいてはいるんですが、大食いやデカ盛りは魅力的なコンテンツで、なかなかやめられないのが実情でしょうね」
賛否ある大食い番組や大食い企画だが、ファンも少なくないのが事実。視聴率が取れるコンテンツという事情もあり、今後もテレビ各局で企画・制作されることになりそうだ。大食いタレント、大食いYouTuberには、くれぐれも無理のないようにしていただきたい。
鎮目博道
テレビプロデューサー。92年テレビ朝日入社。社会部記者、スーパーJチャンネル、報道ステーションなどのディレクターを経てプロデューサーに。ABEMAのサービス立ち上げに参画。「AbemaPrime」初代プロデューサー。2019年独立。テレビ・動画制作、メディア評論など多方面で活動。著書に『アクセス、登録が劇的に増える!「動画制作」プロの仕掛け52』(日本実業出版社)『腐ったテレビに誰がした? 「中の人」による検証と考察』(光文社)