日々、若者文化やトレンド事象を研究するトレンド現象ウォッチャーの戸田蒼氏が本サイトで現代のトレンドを徹底解説。戸田氏が今回取り上げたのは、「飲む和食」。自販機業界に新風が巻き起こっているようで……。
冬の駅ホームやオフィス街の自販機。コーヒーや甘いコーンポタージュが並ぶホット飲料コーナーにおいて、琥珀色の輝きを放つ「お出汁(だし)」の存在感が増しています。この「飲む和食」とも呼ぶべき新ジャンルが、多忙を極めるビジネスパーソンの間で支持を広げているといいます。
こうしたトレンドのきっかけを遡ると、アサヒ飲料が2022年に再販し、瞬く間にヒット商品となった「白湯(さゆ)」の成功が見えてきます。
実は、この白湯には苦い過去がありました。2014年に「富士山のバナジウム天然水 ホット」という名称で発売した際は、需要を掘り起こせず販売終了の憂き目に遭っています。しかし、2022年の再販時に商品名を「白湯」へと刷新したことで状況は一変。成分の希少性を謳うのではなく、「白湯を飲む」という現代人のライフスタイルに直球で訴えるブランディングへの転換により、発売から1か月で当初の年間販売計画の約3倍という驚異的な数字を叩き出しました。
広告をほぼ打たなかったにもかかわらず、SNSや口コミで「外出先でお湯が買える」という利便性が拡散され、サーモスが2023年12月に行った調査によれば、20代から30代男女の約4割が「白湯を飲む」と回答しています。とりわけその嗜好は男性に顕著で、「白湯男子」という言葉が生まれたものでした。
この「白湯」が飲料市場に「無糖・ノンカフェイン・温活」という土壌を築いたところに、より満足感と機能性を乗せて登場したのが「だし飲料」です。現在は、都心部で見かける「うまだし」や、焼きあごが一本まるごと入った「だし職人」シリーズ、さらには蛤や帆立のうま味が凝縮された「Wスープだし」、1000円もする高級な「すっぽんスープ」まで、多彩なラインナップが揃っています。喉を潤す目的に留まらず、出汁に含まれる成分で内臓から体温を上げて効率を高める「能動的な自己管理」として、多くの人が手に取っているようです。
ネット上でも、この「だし飲料」については、
《会議続きでランチを食べる暇がないとき、自販機でお出汁を買って飲むだけでお腹が落ち着くし、罪悪感もないのが助かる》
《コーヒーを飲みすぎた日の午後、お出汁の優しい塩分が体に染み渡る》
《エナジードリンクよりこっちの方が仕事がはかどる気がする》
《都内で見かけた150円の出汁が想像以上に本格的で驚いた。いろんな旨みがして、飲み終わったあとの満足感がすごい》
といった意見が目立ちます。
「健康志向も追い風となり、低カロリーで深い旨みを味わえる出汁は、多忙なビジネスマンが日常のコンディションを維持するための“頼れる補給源”としての役割を果たしつつあります。コンビニのレジに並ぶ時間や、お湯を注ぐ手間を省き、数秒で“小腹の充足”と“体調管理”を同時に行える自販機の出汁は、非常に合理的な選択肢。また、これまでの清涼飲料水は“喉が渇いたから飲む”という解決策でしたが、だし飲料は“心と体を整える”という食の領域に踏み込んでいます。
もともと自販機の出汁といえば、持ち帰って料理に使う濃縮タイプが主流でしたが、最近はそのままゴクゴク飲めるよう塩分や濃度が調整された缶やペットボトルが急増しました。また、料理のベースにもなる本格的な商品も手軽に買えるようになり、市場はさらに強固なものになると予想されます。実際、大手飲料メーカーは将来的にだし飲料市場を5億~10億円に育てると、鼻息を荒くしています」(グルメ誌ライター)
かつては「ただのお湯」として見向きもされなかった白湯が、現代人の「整えたい」という切実なニーズを掘り起こし、今や数百円する「飲む和食」が飛ぶように売れる。自販機から出てくるその温かい一本は、ビジネスパーソンの空腹を満たし、健康を促進し、仕事への活力につながる最強の「タイパ食」へと進化したようです。
トレンド現象ウォッチャー・戸田蒼
大手出版社でエンタメ誌やWEBメディアの編集長を経てフリー。雑誌&WEBライター、トレンド現象ウォッチャーとして活動中。