「背広」が「テーラード・ジャケット」になったり、「ズボン」が「パンツ」「スラックス」「トラウザーズ」になったり……。
ファッション用語が、時代によって呼び方が変わるのはなぜなのか。男性ファッション誌記者が、声を潜めて説明する。
「乱暴な言い方になりますが、ファッション業界は、“カッコよさ”を売る仕事。同じアイテムでも、呼び方が古臭く感じるようになったら、新しい呼称を取り入れて、カッコ良さを上書きしていく傾向がありますね」
商品を売るためには仕方がないのかもしれないが、その煽りを最も食らうのが、中高年男性──いわゆるお父サン世代だ。
中年コラムニストの中井仲蔵氏が、その世代を代表して熱弁する。
「店でうっかり、“あそこに掛かってるズボンを……”なんて言うと、“あのパンツですね”みたいに直されることがあるじゃないですか。店員さんに悪意はないのは分かってますが、急にダサいオジサン扱いされている気分になる人も多いと思うんですよ。
でも、無理に若い言葉へ寄せなくてもいいと思うんです。ズボンはズボン、背広は背広、革ジャンは革ジャン。それを堂々と言えるほうが自然ですよ。自分の言葉を恥ずかしがらずに使えるのは、年を重ねた人間の強みじゃないですか。そっちのほうが逆にカッコいいと思います。……って若い子も思ってくれればいいんですけどね(笑)」
そこで今回は、今の呼び方と昔ながらの呼び方を比べながら、あえて使いたい「お父サンのファッション用語」を見ていきたい。
まず、お父サン世代の脳に焼き付いているのが、「ジャンパー」と、それを略した「○○ジャン」と呼ばれる一群の服。
「レザージャケット」は「革ジャン」、「スーベニアジャケット」は「スカジャン」、「デニムジャケット」は「ジージャン」。
「前に英国人の知り合いに聞いたのですが、ジャンパーというのはイギリス英語のようで、あまりアメリカ人は使わないようです。とはいえ、イギリスでもこれはセーターを指す言葉。どうやら、日本に作業用の丈の短い上着が導入されたときに、ひとまとめにジャンパーと呼ばれたのが、定着したようです」(中井氏)
ちなみに「スーベニア」は「おみやげ」という意味。神奈川の横須賀で、米兵が日本みやげで作らせた「おみやげ用の上着」が、ヨコスカジャンパー=スカジャンとなったようだ。
一方、デニムジャケットはジージャン、パンツはジーパンと呼ばれ、それぞれGジャン、Gパンとも表記された。
「由来は、『戦後にアメリカの進駐軍・GIが履いていたから』という説がありますが、たぶん、ジーンズの略でジーでしょうね。われわれの世代では、『太陽にほえろ!』(日本テレビ系)で松田優作さんが演じた『ジーパン刑事』の印象が強いですが、あれがもし『デニパン刑事』だったらドッチラケだったと思います」(前同)
ジーパンの話が出たところで、「パンツ」についても考えよう。
「お父サン世代にとっては、やっぱり“ズボン”がしっくり来ます。“パンツ”は下着の印象が強く、スラックスはなんだか気取ってるし堅苦しい。トラウザーズに至っては、“いったいなんのことやら”という感覚です」(同)
となると、ハーフパンツ、ショートパンツにも違和感があるのでは?
「そこはズバリ“短パン”か“半ズボン”でお願いしたいですね」
よく言われるように、言葉は生き物。
「今、使われている言葉も、20年後にはダサいと思われているかもしれません。今の若者も、覚悟しておいたほうがよさそうです(笑)」(同)
中井仲蔵(なかい・なかぞう)
1968年、富山赤十字病院生まれ。普段は某中小企業に務めつつ、こっそり雑誌やウエブ媒体に原稿を書くコラムニスト。東京で営業中の銭湯400軒超すべてに入湯した銭湯マニアで、他にも歌舞伎や文楽(人形浄瑠璃)などの古典芸能から、アメリカン・コミックス、映画まで、コラムのジャンルは多岐にわたる。