日本競馬界のレジェンド・武豊が名勝負の舞台裏を明かすコラム。彼のここでしか読めない勝負師の哲学に迫ろう。

(以下の内容は2026年7月6日に寄稿されたものです)

 ダブル台風に見舞われた6月最終週、函館競馬で行われたメインレースはGIII函館記念でした。

 昨年までの僕の騎乗成績は、10戦して、1勝2着1回。勝ったのは、トウケイヘイローと挑んだ2013年のこと。

 このレースのことは、ゲートを出てからゴールするまで、ほぼすべてを記憶しています。ただ、勝ったこのレース以上に強烈な印象として残っているのが、今なお“伝説の函館記念”と称えられる、サッカーボーイが優勝した1988年のレースです。

 85年のダービー馬シリウスシンボリ。87年のダービー馬メリーナイス。87年の桜花賞、オークスを制したマックスビューティ。そして、阪神3歳ステークスの勝ち馬サッカーボーイと4頭のGI馬が函館に集結。当日の函館競馬場は、まるでGIレースのような盛り上がりでした。

 ほとんどの方が記憶されていないと思いますが、実はデビュー2年目の僕も、マイネルグラウベンに騎乗。結果は14頭立ての14着と、まるでいいところなく終わってしまいましたが、最後の直線でサッカーボーイが繰り出した脅威の末脚は今、思い出してもゾクッとします。

 ディープインパクト産駒のケイアイセナで2勝目を狙った今年の函館記念は、ポンと飛び出し、そのままハナへ。道中、単騎先頭で気分よく走り、勝負は最後の直線です。

「あと、ちょっとだ!」

 僕の声に応え、馬も最後の力を振り絞ります。結果は、半馬身、アタマ、クビの4着。“惜しかった”という思いはありますが、力は出し切れたと思います。

 勝ったのは、デビュー4年目の小林美駒騎手。彼女にとっては、一生、思い出に残る重賞初勝利です。

 小林美駒騎手、本当に、おめでとう!