■若林が「たまに幸せ」になれる存在とは

 オードリーは『M-1グランプリ』で準優勝したことで、すっかり有名人の仲間入りをしていた。だけど、注目されるのは、若林の相方・春日(戸塚純貴/30)の突出したキャラクターばかりで、春日の節約生活のリアルをむつみ荘で見せるロケばかり。コインシャワーと飴ジュースの話を何百回もしていることに疑問を持つ若林は、いじられている春日が「楽しそうじゃなく、楽しんでる」ように見えることに腹が立って仕方がないのだ。

 だけど春日の来るものを拒まないスタンスは、若林の父・徳義(光石研/61)にも通じていた。バンドを組んでギターを弾いていることを「楽しそうじゃないんだよ、楽しいんだよ!」と言っていたのだ。若林のジレンマは、長年、父親のそばで培われていたものであることが分かる。幼少期の医者からのアドバイスで、感情を抑えなければならなかった自分がなりたかった、楽しい人に憧れがあるからだ。春日とのコンビを続けてこられたのは、父親により育まれた耐性でもあった。

 この葛藤を演じるのは、とても難解だろう。「売れてよかったこと」「売れて悪かったこと」をノートに書き連ねていく若林だが、小さな変化があった。これまでは、自分の中にある整理できない感情や、春日との漫才ネタを書いていたが、テレビプロデューサー・島の紹介で出会った山里(森本慎太郎)と漫才をしたことで「たまに幸せ」と思えたことだ。山里のことをノートに書くことも、幸せだと思えることも、これまでになかったことだ。

 漫才ユニット・たりないふたりとしての活動が始まった、若林と山里。演じる高橋と森本が、親友だからこそ見せる息ピッタリの漫才と、目の合わない会話を存分に楽しみたい。(文・青石 爽)