■人の心を打つ“痛み”をどう描くかに注目
空豆はとにかくエネルギッシュな女性だ。自分のことを“おい”と言い、九州弁を混ぜた独特な方言を使い、量販店で購入した『大東京』と書かれたスウェットを着用する。高速バスで口を開けていびきをかいて寝ていたり、目覚ましに公園の噴水の水で顔を洗ったり、高級中華料理店で一人飲み食いをしたりと、豪快そのものだ。
だけど、純粋で媚びのない生き方がまぶしくて、常に全力ゆえ危なっかしくて放っておけないという魅力がある。これを広瀬は元気ハツラツに、かわいらしさを残しつつ、ナチュラルに演じられるのが素晴らしい。
ところで、今後、ドラマが展開していくうえで重要なシーンがあった。音は、所属するレコード会社の担当A&Rに「あんたの曲には痛みがない。だから人の心を打たない」と難しい顔で言われてしまう。さほどショックではないように見えた音だったが、これは人としても音楽家としても、成長するためのポイントになるだろう。
昨年、脚本担当の北川悦吏子氏は、小説を音楽にするユニット『YOASOBI』などで活躍するコンポーザーのAyase氏と番組の企画で対談をしており、作品を制作することへの苦しみや楽しみを語り合っている。創作の原動力は心の“痛み”であること、自分の“リアルな経験”が影響していることに共鳴していた。
この、“痛み”や、“リアル”が音に足りないのだとしたら、それは空豆との出会いで知ることになるのだろう。空豆は、好きな人を一途に想う人であり、失恋の痛みや苦しみをリアルに体現している人物だ。「あまり人を好きにならないみたい」と自覚している音が変化して、かけがえのない人や時間を想うようになったとき、奥行きのある素晴らしい音楽が生まれるだろう。(文・青石 爽)