■市の判断の是非を若狭勝弁護士に聞いてみると……
市の判断を法律の専門家はどう見るのか。元東京地検特捜部副部長でテレビ出演も多い若狭勝弁護士に聞くと、「教員も賠償責任を巡って争う余地はある」と話す。
「国家賠償法に照らし合わせて公務員が賠償請求をなされるのは、公務員個人が“重大なミス”を犯した場合です。今回のケースですと操作マニュアルを学校側が紛失している。
これは当該教員の責任ではない。操作マニュアルが手元にあれば、注水スイッチとろ過装置を同時に押すことはなく、ブレーカーを落とさなかったかもしれない。そうなると国家賠償法で定める“重大なミス”に当たらない可能性があります」
思いもよらぬ負債を負った教員に救いの道が開けてきたと言えるのかもしれない。しかし、「これは公務員として働く立場だからこそ成り立つケース」と若狭氏は語る。
「公務員が賠償責任を恐れて仕事をするようになると、常時ビクついて仕事をし、公務に支障が出かねません。そうすると市民生活にも影響が出かねない。また、公務員は一般企業と違って公務員試験を受けてもらった上で採用を行なうわけです。
会社員であれば企業に損害を与えた社員を解雇し、空いた穴を採用活動で即座に埋めることも可能ですが、公務員はそうもいきません。一方で、会社員の場合、たとえば、保養施設などにあるプールの水を出しっぱなしにしてしまい、会社に損失を与えた場合、損害賠償が認められる可能性が十分にあります」
会社員が企業から賠償請求をされた際、どの様に対処すべきなのだろうか。
「自身の過失でない場合、不可抗力であった旨を主張するしかありません。現実的には和解額を減額するよう交渉するのが関の山でしょうか」
市の担当者によればミスを犯した当該教員は「様々な部署の人に迷惑を掛けてしまい申し訳ない」と反省の弁を漏らしているという。今後、川崎市民からの反発を受けて市が教員への賠償請求を撤回することはあるだろうか。