■「これは経費で落ちません!」なんてことも起こりうる!?

 一連の流れを聞く限り、企業の庇護のもと働いているサラリーマンには縁遠い話にも思えてくる。ところが、「大いに関係ある」と明かすのは立正大学法制研究所特別研究員で税理士の浦野広明氏だ。

「たとえば、取引先との会食などで使う飲食店。チェーン店やオーナーが複数店舗を運営する店の一つであれば、インボイス登録が済んでいるでしょう。しかし、個人店であれば話は別。

 今まで安くて美味しいと評判で、取引先の人も連れて行っていたはずのお店が“インボイス登録をしていない”から”仕入れ税額控除の対象にならない”との理由で領収書をもらったはいいが、経理部から経費精算を断られるなんてことも起こりかねません」

 つまりは、会社が得た利益に対して掛かる消費税分から、取引先との会合で利用した飲食店の利用料に対して掛かる消費税分を差し引けない。要は会社の利益が減るため「それは経費では認めません」と領収書を経理部から突き返されるケースが出てくる可能性があるというわけだ。NHKドラマ『これは経費で落ちません!』(2019年)での主演・多部未華子(34)のセリフが一般の会社でも発せられる展開が……!?

 他にもサラリーマンの落とし穴となりかねないのが、個人タクシーだ。

「法人タクシーはインボイス発行ができますが、個人タクシーであれば話は別です。深夜残業で疲れた後に、帰宅して領収書を貰ったはいいがインボイス登録していないなんて可能性はゼロではありません」(前同)

 激務を終えてクタクタになって帰宅したら、深夜割増料金を自腹精算なんてことが起こりうるわけだ。しかし、浦野氏はこうも付け加える。

「個人タクシーの中にもインボイス対応をしている方は大勢います。その様な方々は、インボイス対応のレシート印刷機を導入するなど経営努力を続けている。当然、今後は導入器具の維持費も必要になる。そもそも免税事業者の場合、インボイス登録をするかどうかは個人の選択です。登録していないからと責めたり、罵詈雑言を浴びせるなんてことをしてはいけません」

 制度の導入が原因で右往左往するなんてことは誰の身にも起こりうること。過剰反応することだけは避けるのが“マナー”だ。だが、やはり10月1日からインボイス制度をめぐり、さまざまな混乱が起きるのは避けられない感じも……。

浦野広明
立正大学法制研究所特別研究員、税理士
立正大学法学部教授・立正大学大学院法学研究科教授、立正大学法学部客員教授、立教大学経済学部・早稲田大学社会科学部・日本大学法学部の非常勤講師などを歴任。大学卒業後、1980年に税理士試験合格。