■30年間で醸成されてきた「モノより思い出」という価値観

 格差をコンテンツにするとは、どういうことか。

「近年特徴的なのは、“ひけらかしてもOK”という雰囲気になってきたこと。たとえば以前なら自慢は嫌われるものでしたが、YouTuberの人気コンテンツ『総額1000万円分買ってみた』といった“爆買い”報告に見られるように、高額消費もネタにすれば受け入れられる風潮ができあがってきている。

 一億総中流時代は嫉妬心や欲があったものですが、いまはもう“諦め”。むしろ、自分には手に届かない物を買う人を見ることで満足する層が増えました」(前出の原田氏)

 また1999年の日産・セレナの「モノより思い出。」というキャッチコピーは「革新的だった」と、原田氏は振り返る。

「戦後日本では、車や家を買うことが“目標”で、少しでも高級なものを手に入れるために働いてきたけど、時代とともにそれらが特別なステータスでもなくなってきたという象徴でした。そして当時の、つまり90年代後半から00年代の若者が今40代という親世代になった。親子共々”モノより思い出”。ここ30年でモノに対する興味は激減したと言えると思います」

 一方で、マジョリティとは違う体験がしたい、なかなか手に入らないものが欲しいという欲求は高まっているという。

「ネットやSNSの発達もあり、TikTokやインスタグラムでとにかく思い出を残そうとするようになりました。そしてそこでは今、”スペシャルな体験”が自慢になる。

 モノは人に見せても”いいね”で終わってしまうけど、体験であれば、見せた相手に疑似体験させることができます。体験の内容によっては真似もしやすく、共感が得られる。SNSで話題にもなりやすいというわけです」(前同)

 福袋の変化の裏側には、時代の大きな変化があったということか。

原田曜平
慶應義塾大学商学部卒業後、広告業界で各種マーケティング業務を経験し、2022年4月より芝浦工業大学・教授に就任。専門は日本や世界の若者の消費・メディア行動研究及びマーケティング全般。
2013年「さとり世代」、2014年「マイルドヤンキー」、2021年「Z世代」がユーキャン新語・流行語大賞にノミネート。「伊達マスク」という言葉の生みの親でもあり、様々な流行語を作り出している。
主な著書に「寡欲都市TOKYO 若者の地方移住と新しい地方創生 (角川新書)」「Z世代 若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか? (光文社新書)」など。