■「教育虐待」の背景にグローバル社会の重圧!?
一方、巷では親が子どもの耐えられる限度を超えて勉強を押しつけ、時には暴力もふるう“教育虐待”という現象も生まれるほどに過熱している中学受験。なぜ、そのようなことが起こるのか。
「一つは社会不安があると思います。社会で働く大人たち、親世代が、グローバルに活躍できるハイスペック人材にならなければ会社をクビになるかもしれないという恐怖にさらされているというのがある。だからこそ、子どもには社会で生き抜くために少しでも強い鎧と武器を与えたいということなのでしょう」(前出の中学受験ジャーナリストのおおた氏)
鎧とは学歴のこと。武器とはプログラミングや英語力など実践的なビジネスの場で役立つスキルのことを指す。そのため、熱心な家庭では塾通いを始める前には、幼児英語教室などに通わせていたケースも多いという。
また、20年1月から日本中で猛威を振るった新型コロナウイルスの影響も、中学受験を決断する家庭が増えた一因ではないかとおおた氏は分析する。
「20年に政府主導で全国の公立小・中・高などに一斉休校が命じられました。地域によっては3か月ほど休校になる地区も。この時、リモート授業などを積極的に導入したのが私学だったのです。公立の教育機関がその機能を果たしていない、そんな印象を持ってしまった親は多かったのではないでしょうか」
中学受験をする子が増え、受験直前まで習い事を続ける家庭も多くなったという。この変革を「悪いことではない」とおおた氏は言う。
「中学受験で第一志望に合格する子はごく少数。大半が負け戦を味わいます。中学受験は人生を左右しません。サッカーや野球のように子どもが好きな習い事を続けながら、中学受験を行なうのも良いでしょう。むしろ、親の役割は“この学校に入らなきゃダメ”と子どもにプレッシャーをかけるのではなく、どこに行っても大丈夫な子へと育てることだと思います」
人生のゴールではなくスタートに過ぎない中学受験。しかし、その道がイバラの道であるのもまた事実だ。親子で同じ方向を向いて進まなければ成功はつかめない。だからこそ、雑誌を手に取って、親子でじっくりと話す時間も大切ではないだろうか。
おおたとしまさ
1973年、東京都生まれ。麻布中学・高校出身で、東京外国語大学中退、上智大学英語学科卒。中高の教員免許を持つ。リクルートから独立後、教育関連の記事を幅広いメディアに寄稿、講演活動も行う。著書は『ルポ教育虐待』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『勇者たちの中学受験』(大和書房)など多数。最新作に『中受離婚』(集英社)