■さすまた活用で大事なポイントは
さすまたは、長さ2メートルほどの物が一般的だが、現在では伸縮タイプや1kg前後の軽量タイプの商品もあり、数千円~1万円ほどで購入できる。犯人を取り押さえたり、威嚇・攻撃を防ぐ効果が期待されるが、元神奈川県警刑事で犯罪ジャーナリストの小川氏によれば、活用にあたっては大きく2つのポイントがあるという。
「長さがあるさすまたは、凶器を持っている相手との距離を保つことができるのが最大のメリットです。ただし一人で扱うのは難しく、ポイントは”複数人”で使うこと。
それぞれがさすまたを手にして、相手を追い込むことが重要になってきます。その間に他の人が凶器を振り落とさせる、相手につかみかかるなどするまでの時間稼ぎの意味合いもある。
23年3月1日、埼玉県戸田市の市立美笹中学校へと刃物を持って当時17歳の少年が侵入した事件がありました。少年を取り押さえようとした男性教員が切りつけられ、負傷。この際にも現場へと駆けつけた隣のクラスの先生は、さすまたを持って来ていたんですよね。複数で立ち向かっていれば、男性教員が負傷することはなかったかもしれません」
シンプルな作りで手軽なさすまただが、護身や警備といった訓練を受けていないとなかなか取り回しが難しいのも事実だという。そこでもう一つ大きなポイントとなるのが”実地訓練”だ。
「さすまたは交番には必ずありますし、パトカーにも搭載するほど有効な防犯用具。学校や貴金属店などでもさすまたを常備するところが増えています。
一方で、さすまた自体は知っていても、それを使ってどこを狙えばいいのか、対象者を取り押さえた後はどうすればいいのかなど、使い方を知らないケースも少なくありません。そして、使い方を知らないと逆に危険な状態になることもある。私も交番や幼稚園へよく教えに行っていましたが、実地訓練を行ない、どうやって対象を取り押さえるかなどといった、使い方を体で知っておく必要があります」(前同)
小川氏は、今回の上野の事件については「咄嗟に起きたこととしては、さすまたを上手に使っていると思います」と評価するが、基本は「複数人」でこそ威力を発揮するということと、「実地訓練が大切」とあらためて説く。一事が万事。しっかりと覚えておきたい。
小川泰平
1961年愛媛県松山市生。神奈川県警での勤務を経て2009年12月に退職。現在はテレビ、雑誌、新聞などでコメンテーターとして幅広く活躍中。