■開発着手から3年、本物レモン入りサワーが実現しなかった理由
さまざまなフレーバーがあるサワーやチューハイ。23年10月1日に酒税法が改正されるや、第三のビールなどは大幅に値上げされたが、サワーやチューハイの税率は据え置かれたままで割安感もある。そんな中でも、レモン味は根強い人気を誇るが、これまで“本物”のレモン入りサワーを作ろうと考えたことはなかったのか。アサヒビール新ブランド開発部・山田秀樹さんに話を聞いた。
「これまでにも、本物のレモンが入ったサワー商品を製造することは考えたことはあります。実現に至らなかった理由は、大きく2点。まず固形物であるレモンを缶内に入れる必要があったということ。これまでは液体しか使っておらず、また安心・安全に召し上がっていただき、かつ安定的な原料調達を大量に実現する必要がありました。そのためのパートナー農家さんがいなかったことなどから、製造や原料調達で固形物を取り扱うノウハウがありませんでした」
今回、同商品で使用されているレモンスライスは、年間60万トン以上の収穫量があり、世界有数のレモンの産地で知られる中国四川省安岳県(あんがくけん)産の物。収穫後、品質を保持するための農薬処理はしておらず、安心・安全品質のものを採用しているという。また、缶の中にあるレモンスライスは腐る心配はないという。
アサヒがこだわり抜いた『未来のレモンサワー』。開発に着手したのは21年4月で、本格販売に踏み切るまで約3年の月日がかかったようだ。
「工夫したのは缶の中に入れる、レモンスライス。こちらは乾燥レモンを使用しています。乾燥レモンの使用方法には気を使いました。サワーの液に凝縮したレモンスライスのおいしさがジワジワとしみ出し、サワーの香味が時間経過とともに深まります。これは、干しシイタケで出汁を取る原理と同じです。
これにより、出来たてのフレッシュな美味しさや、時間が経過した香味の深まったおいしさ等、1本1本少しずつ異なる“個性”のある品質を楽しんでいただくことが可能となります」(前同)
そのまま食べることもできるレモンスライスには個体差があるため、缶のパッケージでもその“差”があることを表現。表裏8パターンのパッケージが用意されているという。
缶のふたを一度開ければ、しゅわしゅわという泡立ちの音とともに、レモンスライスが飲み口に浮いてくる様子を見て楽しめ、豊かなレモンの香りも鼻に広がる。飲むタイミングにより1缶ごとに異なるという味わいは、味覚はもちろん泡やレモンの舌触りといった“触覚”にも違いを感じさせてくれそうだ。
「これまでのサワーやチューハイは味や香りを楽しむだけのものでしたが、『未来のレモンサワー』は、ぜひ五感で楽しんでいただければ」
と新ブランド開発部の山田さんは話す。
“美味しいだけではもう物足りない”――そんな、消費者のニーズを満たすような五感で楽しむ新たなレモンサワー。新体験で消費者の心を動かそうとする新ドリンクは、今後、次々と生まれてくるだろうか。