■「第一志望に合格した子こそが心配」なワケ

 中学受験の準備を親子で始めるのは、一般的に小学4年生を迎える前の春休みからが多いという。親子は3年間かけて受験に備えるわけである。

「中学受験に挑むなら、不合格になることも考えて3年間を過ごす必要がある。仮に第一志望に落ちてしまい、第二・第三志望の学校へと進学することになったとしても、子どもが胸を張って明るく通学できるのであれば、それは3年間の親子の接し方が100点満点だったということなのです」(前出のおおた氏)

 また、おおた氏は中学受験とは人生のスタートに過ぎないと強調する。

「第一志望に落ちたら悔しいでしょう。それはよくわかります。ただ、中学受験は人生のスタート地点。むしろ目標に向けて3年間一生懸命頑張ったという事実のほうが大切です。報われないかもしれないとわかっていることに、最後まで努力を続けられたこと自体を誇りに思ってほしいですね。報われるとわかっていることを努力するのは、ただの損得勘定ですから」

 中学受験で不合格を味わったとしても、それは大人になるための第一歩を踏み出す良いきっかけだと、おおた氏は話す。

「就職活動や恋愛に始まり、社会に出たら思い通りにいかないことなんて、たくさんあります。第一志望に落ちて、第二・第三志望の中学校へと進学したとしても、人生は続く。進学先で自分が楽しい学園生活を送れていることに気がつけば、進学先が望んだ道でなくても、最終的に正解を自分で作れるとわかります。それこそが、正解のない時代を生きるのに必要なメンタリティーではないでしょうか」

 おおた氏は逆に、第一志望校に合格した家庭の子どもたちこそ心配だ、とも語る。

「合格通知を手にして“よく頑張った、自慢の息子・娘だ”と浮かれる親御さんもいるでしょう。しかし、”第一志望に合格したから自慢の子どものように人に話してくれているけど、この親はもし自分が期待に応えられなくなっても、いまと同様に自分のことを愛してくれただろうか?”と不安に感じる子どももいるのです。そういう子どもは、ずっと親の期待に応え続けなければいけないという呪縛から逃れられないのです」

 中学受験で第一志望に合格できなくても、人生で困ることは何もない。むしろ、失敗から学べることは多くある。その後の人生に、中学受験の経験を生かすも殺すも、本人と、それに寄り添う親次第ということだろう。

おおたとしまさ
1973年、東京都生まれ。麻布中学・高校出身で、東京外国語大学中退、上智大学英語学科卒。中高の教員免許を持つ。リクルートから独立後、教育関連の記事を幅広いメディアに寄稿、講演活動も行う。著書は『ルポ教育虐待』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『勇者たちの中学受験』(大和書房)など多数。最新作に『中受離婚』(集英社)などがある。