雄大な自然風景が広がる広島県廿日市の宮島。そんな宮島にそびえる世界遺産・厳島神社が、まさかの“危機”に直面しているという――。

「全長80センチ~1メートル、体重2キロはある大型の水鳥・カワウ。この鳥が、いま厳島神社がある宮島の原生林の周辺で糞をまき散らしているんです。多量の糞が原因で、周辺の木は枯れ、原生林は丸裸に。景観が悪化するなど大きな被害をもたらしています。

 自治体の職員らが世界遺産を守ろうと、カワウが飛来する近くの山林にテープを張り巡らせ、懸命の対策にあたっているものの、相手は大群でねぐらや巣を作る習性がある。このことから、追い払おうにも追い払えない状況が続いています」(地元紙記者)

 カワウの飛来だけなら今に始まったことではないが、廿日市市農林水産課の担当者は、「ここ4~5年で飛来数が大きく伸びており、被害が拡大している」と嘆く。被害は山だけにとどまらず、海にも及ぶというのだから、厄介だ。

「海では、放流稚魚や天然の幼稚魚が捕食されている。このことにより、水産資源の減少が懸念されています」(前同)

 そんなカワウ、なぜ、宮島に飛来するのだろうか。

「島のほとんどが山林で、目の前に海が広がっていることから、警戒心の強いカワウにとって居心地の良い環境が整っているのではないでしょうか」(同)

 カワウが飛来している山林にテープを張り巡らせるだけでなく、ドローンを活用してカワウの巣にドライアイスを投入。繁殖を抑制しようと市も必死の対応している。今後も市では捕獲作業なども検討しているというが、対策がなかなか進まない背景には宮島特有の事情があるようだ。

「宮島は、島全体が特別史跡や特別名勝の指定を受けていることに加えて、島のほとんどは国有林や国立公園の指定を受けています。対策を実施しようにも、周辺環境を配慮した上で複数の手続きを踏む必要があるんです。他の地域にはない宮島特有の課題です」(同)

 しかし、カワウの飛来が増えるにつれて、世界遺産である厳島神社への影響が懸念されているのも事実。担当者は「被害が拡大しないよう、関係機関や専門家と意見を交えながら、カワウの巣がある山林へのテープ張り等を引き続き実施。個体数の削減を行なっていきたい」というが、根絶に至る道筋は見えないようだ。