■タカも恐れるカワウ、糞害で橋が落ちたことも……
アジア動物医療研究センター長で、鷹匠でもあるパンク町田氏が、カワウが人間の生活に被害を与える理由を解説する。
「カワウの特徴はその巣の作り方にある。他の鳥類が落ちている枝などを使って巣を作るところ、木の枝を折って巣を作ります。力が強く、カラスのような害鳥を捕食するオオタカでさえその存在は恐怖。タカは相当お腹が減っていても、カワウにだけは手を出さないというぐらい力が強いんです」
見た目とその力の強さから「黒いギャング」とも呼ばれるカワウだが、“大食い”としても知られている。
「1日に体重の4分の1にあたる500グラムほども魚を食べる。1羽につき500グラムとして、100羽いれば50キロ、1000羽なら500キロですから、漁業へも被害が出ます。当然、いっぱい食べるから、いっぱい糞をする。かつ、一箇所で集団生活をしているので、大量の糞でそこらへん一帯の樹木を枯らしてしまうというわけです」(前同)
鳥類の糞で、なぜ樹木が枯れるのか。
「鳥は、飛ぶために身体を軽くしておく必要があるんですね。だから鳥類はしょっちゅう排泄するし、糞尿が一緒くたで、ドロっとした濃縮状になっています。その糞にはアンモニアや酸といった成分が含まれていて、“濃度”が高い。あまりにも大量で長期間堆積すると、土壌が酸化し、樹木も枯れていく。
カワウにより、山の地肌が見えるとか土砂崩れが起こった等の被害が全国各地で報告されていて、その強力さは金属までも腐食させるほどです」(同)
和歌山市・紀の川にある六十谷(むそた)水管橋(全長約550メートル)では、2021年10月に橋が崩落する事故があった。原因は、カワウの糞害により、水管橋をつなぐ金属の吊(つり)材が腐食したことだ。
宮島でも、近くにある厳島神社への被害拡大が懸念されるが――。
「そもそもカワウは、1970年代に日本での環境汚染がひどくなり、全国で個体数を3000羽以下にまで減らしています。今、個体数が増えているということは、環境が良くなり、エサが増えて生活しやすくなったということでもある。
絶滅しかければ保護、増えすぎると駆除というのは、本音では人間のワガママ。カワウのねぐらを追い払っても、それごとどこかに引っ越すだけなので、カワウと人間がどうにかしてうまく共存する方法を模索するしかないんです」(同)
カワウも生き物である以上、人間の思惑通りに行動してはくれないのだ。
パンク町田
1968年東京生まれ。
NPO法人生物行動進化研究センター理事長、アジア動物医療研究センター長。特定非営利活動法人日本福祉愛犬協会(KCJ)理事。
日本鷹匠協会鷹匠、日本鷹狩協会鷹師、翼司流鷹司、鷹道考究会理事、日本流鷹匠術鷹匠頭。
昆虫から爬虫類、鳥類、猛獣などあらゆる生物を扱える動物の専門家。
野生動物の生態を探るため世界中に探索へ行った経験を持ち、『飼ってはいけない(禁)ペット』(どうぶつ出版)は大ヒットとなった。動物関連での講演、執筆、テレビ出演など多方面で活躍中。