■「職質はポイント稼ぎになる」説は本当か

 では、職質されたら、どう対応するのがいいのか。

「何も後ろめたくないなら、素直に協力したほうが早く帰れます。慣れている警察官なら、単に警察が嫌いで意地になって協力しないのか、本当に持っていてはいけないものを持っていて、それを見せたくないのか、察するものです。

 ただ”この人は大丈夫だな”と思ったとしても、100%それが正しいかどうかまではわからない。なので、協力を仰ぐのです」(前出の小川氏)

 職質に応じるかどうか、法律上は「任意」だ。 しかし、協力を拒否すると、それが不信感につながり、やりとりのなかで暴言を吐いてしまったり、もみ合いになったりすれば、最悪の場合「公務執行妨害」として結果的に捕まってしまう可能性がある。

「仮に職質を求めた相手がゴネたからと、警察官が”じゃあいいよ”と見逃すとしますよね。すると、”ゴネ得”になってしまう。一度それを許すと、今はSNS時代だから、“職質はゴネたらOK”なんていうウソか本当かわからない話が広まりかねません。警察の仕事にも少なからず支障が出てきてしまいます」(前同)

 ウソか本当かわからない話といえば、小川氏は、SNS上に流布する「職質は警察官の点数(ポイント)稼ぎ。職質を数多くこなす警官は評価があがる」という“説”について「そういったことを書いた投稿をよく見かけるが、職質を数多く行なったからと警察官の評価が上がるわけではない」と話す。

「当然、職質して犯罪を未然に防いだ。逃走中の犯人を捕まえたとなれば、警察官の点数にもなりますよ。でも職質を1日100件や200件と、数を多くこなしたからといって、その警察官の評価が高くなるわけではない。1回の職質で捕まえても、100回職質して1回の逮捕でも、警察組織内での評価としては同じです。

 むしろ私なら、数だけ多く職質して何も検挙できないでいる警察官のほうがセンスないんじゃないかと思っちゃう。それより、ちゃんと見抜ける目を鍛えるとか、警察官としてのレベルを上げたほうがいいんじゃなかとは思います」(同)

 市民の安全・安心なくらしを守る警察官。その第一歩となる職務質問は、地道な現場活動によって積み重ねられた捜査員の勘がフル動員されているのだ。

小川泰平
1961年愛媛県松山市生。神奈川県警での勤務を経て2009年12月に退職。現在はテレビ、雑誌、新聞などでコメンテーターとして幅広く活躍中。現場刑事の掟(イースト・プレス社)など