■少年時代の輝きを回想する炬太郎が切ない

 光太郎は小説家になる夢をあきらめたくないという思いで20年間書き続け、やっとつかんだデビューだった。それは、大学を出て就職したものの半年で退社したという炬太郎にとっては、まぶしすぎる栄光だった。

 少年野球チームで万年補欠だった炬太郎と光太郎は、「俺たちも奇跡を起こすんだ!」と励まし合ってきた。光太郎は転校して遠く離れてしまったが、炬太郎は友人と呼べる唯一の人間であり、自分の夢を叶える原動力を与えてくれた恩人でもあった。「自分のこと、あきらめたら終わりだもん」と言って笑った光太郎は、とてもうれしそうだった。

 そんな光太郎を見る炬太郎は、努めて明るく振舞っていたが、心の底では苦しかっただろう。でも、その自分の苦しい気持ちを見せずに笑うのが炬太郎なのだ。誰も傷つけないように笑うけれど、本当はチクチクと刺さった矢が抜けなくて痛い、そんな表情が秀逸だった。セリフのない芝居、ちょっとした間合いで見せる表情から、本当の気持ちが漏れ伝わってくるのだ。

 帰宅した炬太郎は、光太郎の作品リストを見て愕然とする。タイトルこそ冴えないが、20年小説を書き続けた努力がひしひしと伝わってきて、夢を叶えるという重みがずっしりと伝わってくる。「ダサいだろ、こんな努力、いまどき」と揶揄するように少し笑う炬太郎。それは、光太郎をバカにしているのではなく、「ダブルだめ太郎」だったのに、ずいぶんと差が出てしまったことを嘆きつつ、心の底から感動していたのだ。酒のつまみを口にしながら、自分の20年を省みる炬太郎が切なすぎた。

 そして次回、いよいよ仕事をすることになった炬太郎が見られそうだ。また一歩、成長する炬太郎を応援したい。(文・青石 爽)