■なぜ午後が情報番組だらけになるのか

 それにしても民放を含め、なぜそんなに午後の時間を生放送の情報番組ばかりで揃えるのか。

「まず、生放送の情報番組はロケ代や編集費用が発生しないため制作費が安上がり。テレビ局にとって、視聴率を獲得する主戦場は19時から23時ぐらいまでのゴールデン・プライム帯ですが、ここで勝負をするためには、実はその前の時間が大事だということに各局気づいてきたのです。

 一昔前までは、夕方のニュースが始まるまでの時間は、局にとって正直”二の次”でした。適当に過去のドラマの再放送を流しとけばいいかという程度の認識。ただ、若者がテレビを見なくなり、ゴールデン・プライム帯でもシニアがメイン視聴者層になってくると、その前にどのチャンネルを見ているかというのがカギになってきたという事情があります」(前出の鎮目氏)

 今、民放各局を襲う制作費削減の流れはNHKにもきている。そして、視聴率のカギを握るシニア層はチャンネルを変えず、“惰性”でずっとつけているケースも多いのだという。

「ゴールデン・プライム帯で勝負をするなら、午後にテレビをつける視聴者を囲いたい。言ってみれば時間を持て余していて家でテレビをゆっくり見ることができるという人たち、もしくはテレビをつけつつ、なんとなく時間を過ごす層ですね。

 そういう人を相手に長い時間見てもらえる番組を作れば、そのままつけっぱなしにしてくれてゴールデン帯の番組で視聴率獲得の可能性が見込めるということになります。NHKが狙っているのも、午後帯にぼーっと見てもらえる番組作りでの視聴者獲得でしょう。

 また、家にずっといる人やシニア層は比較的時事ネタが好きなんですよね。総合的に、制作費を安く済ませつつ、チャンネルを変えさせないためには情報番組がいい、という結論にテレビ局サイドも行き着くのです」(前同)

 ただし、鎮目氏は「同じターゲットを取り合う形で情報番組が乱立すると、どのチャンネルも似たりよったりで内容の薄い番組になっていきかねない」と危惧する。

「NHKは受信料で支えられている公共放送であったため視聴率に関係ない番組作りができていました。それを視聴率目当てで制作費が安上がりで済む情報番組を午後帯に放送し、広告料収入で支えられる民放のような番組編成、番組作りの発想になっているのはテレビ業界の危機だと思います。NHKが“民放化”してしまい、NHKらしい番組が減っていくことにならないことを祈りたいですね」(前同)

 受信料で支えられる”みなさまのNHK”は視聴者の期待に応えられるか。

鎮目博道
テレビプロデューサー。92年テレビ朝日入社。社会部記者、スーパーJチャンネル、報道ステーションなどのディレクターを経てプロデューサーに。ABEMAのサービス立ち上げに参画。「AbemaPrime」初代プロデューサー。2019年独立。テレビ・動画制作、メディア評論など多方面で活動。著書に『アクセス、登録が劇的に増える!「動画制作」プロの仕掛け52』(日本実業出版社)『腐ったテレビに誰がした? 「中の人」による検証と考察』(光文社)