■令和の大学生は「ふてほど」をどう見るのか

 脚本のクドカンも主役の阿部サダヲも、昭和45年(1970年)生まれの53歳。自分たちが子どもの頃には当たり前だった価値観が時代とともに、どんどん“不自由”で“窮屈”に変わっていることを、身を持って体感している世代でもある。

 それもあってか、80年代の昭和の再現性はもとより、令和での大暴れっぷりはふだん言えないことをぶっ放しているかのようで痛快さも漂う。

 令和のZ世代はドラマで描かれる昭和と令和の“ギャップ”をどう見るのか。芝浦工業大学デザイン工学部教授で、若者研究の第一人者であるマーケティングアナリストの原田曜平氏に話を聞いた。

「ドラマを見ているという男子大学生からは、“定時で帰る”“残業はしない”など、現代では良いとされる主張について、市郎の“働きたい人は働けばいい、働きたい人が逆に損をする制度はおかしい”というような指摘は新鮮だったようです。違う見方を提示されたことで、逆に自分たちがロジックに縛られ、固定観念があったことに気付いたという意見もありました。

 部下や学生を叱咤激励することについては、相手を大事に思って言っているならOK派と、どんな状況でも怒り方には気をつけたほうがいい派が半々と分かれますね。

 一方で、ジェンダーに関する配慮のない言動には、昭和反対派が多いです。特に女性に対するセクハラや、“更年期?”といった無神経な発言がリアルにあったら嫌悪感を抱くかもしれないという声もあります。ただ、番組はあくまでもドラマであり、そうした時代があったことも理解しているため、割り切って楽しんでいるとのことですね」(原田氏)

 物心ついた時から“コンプラ時代”を生きている若年層にしてみれば、昭和の話は懐かしくもなんともないファンタジー。単純なエンタメコンテンツなのだ。

「大学生たちに話を聞くと、昭和の過激なテレビ番組については”何の問題もない”という意見が大半です。“むしろテレビは昔のほうが面白そうで、羨ましいぐらい”という声も珍しくありません。

 彼らにとって番組は、良い・悪いじゃなくて、単に見たい人が選択すればいいだけだという価値観なんです。これは、“テレビしかなかった”という昭和世代と違い、各種動画サービスやサブスクなど、最初から見るものの選択肢が多い環境に生まれ育った世代ならではの考え方かもしれません」(前同)

 では大学生的に、現代は「コンプラ過剰」なのか?

「“働きたい人がいるのに働かせないというように、本質を見失ったコンプラは変だなと思う”とか、”ドラマで描かれている、”かわいい”とか”髪型変えた?”と言ったらセクハラ、といったことが本当に社会であるならコンプラ過剰だと思う”など、少なくともドラマで描かれている令和のコンプラ対策は、過剰な演出だとは分かりつつも、違和感を抱かせられる部分はあるようです。

 ただし上の世代にしてみれば、そうは言ってもSNS時代。一人の声が大きな波紋を広げてしまうことがあるので、リスクを避けるべく一律に慎重な言動をとってしまうのは、仕方がないことではありますよね」(同)

 令和の大学生は冷静だ。右往左往しているのは昭和世代だけなのかもしれない。

原田曜平
慶應義塾大学商学部卒業後、広告業界で各種マーケティング業務を経験し、2022年4月より芝浦工業大学・教授に就任。専門は日本や世界の若者の消費・メディア行動研究及びマーケティング全般。
2013年「さとり世代」、2014年「マイルドヤンキー」、2021年「Z世代」がユーキャン新語・流行語大賞にノミネート。「伊達マスク」という言葉の生みの親でもあり、様々な流行語を作り出している。主な著書に「寡欲都市TOKYO 若者の地方移住と新しい地方創生 (角川新書)」「Z世代 若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか? (光文社新書)」など。