■中国の若者の実態「1年半で3回失業」「留学費用回収できない」

 若者層の失業率が高止まりした中国では、ネット上でも就職活動に関する情報だらけ。前出の西谷氏によれば「履歴書の書き方や面接を乗り切るテクニックなど前向きな記事や投稿が多数見られる」という。ただし、これについても「自主規制の結果」ではないかと西谷氏は話す。

「近年、中国国内のネット空間は“正能量”、すなわち“ポジティブなエネルギー”を持つべきと国家ぐるみで主導していると聞きます。将来の不安を煽る記事や絶望的な体験談などは“ネガティブ”と見なされ、運営側が自主規制していると考えられます」(前同)

 もちろん、だからといって冷え込んでいる経済状況が好転するわけではない。西谷氏が鬱々とする学生の状況を明かす。

「SNSでは大学を卒業して1年半の間に3回失業し、SNSばかりやっていて“失業ブロガー”と自虐的になる人や、就活がキツすぎて実家に帰るという人など、大卒者の就職がうまくいっていないことをうかがわせる投稿は増えるばかり。

“#自宅待機しながら就活”“#焦る”といったタグもあり、面接にさえ進めずに悶々としている人は多いようです。“低賃金の仕事しか見つからず、留学費用を取り戻すこともできない”といったSNS上の投稿には、同意を示す”いいね”が2万つくなど支持を集めていました。

 ただ、こうしたSNS上に残されている就活に関する投稿でも、“そうはいっても前向きに頑張ろう”と最終的にはポジティブなエネルギーを持つ投稿が目立ちます」(同)

 近年は、大学院進学で就職を先延ばしにする人も少なくなかったという中国。直近の若者は大学院に進学したとて、“勝ち組“にはなれないことをシビアに捉えているようだ。

「24年の大学院試験の受験者数は438万人で、9年ぶりに減少に転じました。大学院生が増えすぎたために就活市場での価値が下がり、院に行くメリットが低いと感じる人も増えたようです。政府としても大学院合格者数の抑制策を進めています」(同)

 14億人超えの人口と驚異的な経済成長を背景に、アメリカと並ぶ経済大国となった中国。しかし、ここにきて、ぐらつき始めた経済状況の影響で、中国社会にも就職氷河期世代が誕生しつつあるようだ。明日の中国を支える若者たちの未来はいかに――。

西谷格
1981年、神奈川県生まれ。ノンフィクションライター。早稲田大学社会科学部卒。地方新聞の記者を経て、フリーランスとして活動。2009年に上海に移住、2015年まで現地から中国の現状をレポートした。主な著書に、『香港少年燃ゆ』(小学館)、『ルポ デジタルチャイナ体験記』(PHP研究所)など。