東京・上野動物園で飼育されていたのは、アフリカ南東部沖に浮かぶマダガスカル島固有種である肉食獣のフォッサ。その名も「べザ」である。自然環境下においては、島内でしか生息していないとあり絶滅危惧種にも指定されているこの希少動物。そんなべザは3月24日、誤嚥(ごえん)による窒息が原因で18年の生涯に幕を閉じたのだ。その死亡が発表されたのは翌25日のこと。都立動物園や水族館の情報を伝える、東京ズーネットの公式X(旧・ツイッター)を通じてであった。
日本国内で見られる唯一のフォッサだったということもあり、その悲しいニュースは大きな話題に。ネット上では、
《ベザさん、お疲れ様でした そしてありがとう》
《18歳だったとのこと、寂しくなりますね》
《国内でフォッサを見ることができなくなってしまった…》
と、ベザの死を悲しむ声が多く並んだ。
動物好きの間では、希少種として知られた存在でもあったフォッサだが、今回の発表を通じて初めて知ったという人も少なくないはず。そもそもフォッサとはどんな動物なのか。絶滅危惧種に詳しい動物ジャーナリストが話す。
「尾が長いのが特徴です。尾が65センチほどあるのに対して、それ以外の全長はおよそ70センチ。樹上で生活することも多く、活動時間の大半は夜です。体には赤褐色から暗褐色の短毛が密に生え、頭部はネコに似ています。大きな目は正面を向いていて、爪は出し入れもできる。指のあいだには水かきもあり、泳ぎも苦にはしません」
べザが上野動物園にやってきたのは2010年1月のこと。メスのアンバー(17年死去)とともに日本から1万3000キロ以上離れた南アフリカの飼育施設から来日。同年2月から園内で公開されたという。4歳で来日してから14年の時を日本で過ごしてきたべザ。
実際の暮らしぶりはどのような感じだったのか。弊サイトが同園に尋ねてみると、
「日課といえるようなものは特にありませんでした。しかし、園内での行動がワンパターンとならないよう、給餌時間やトレーニングをランダムに取り入れていました。餌の量は体重に合わせて週ごとに決めており、1日に鹿肉200~205g、馬肉50~150g、鶏頭2、3個のほか、時々鶏ささみ肉や鶏むね肉なども与えていましたね」(上野動物園・教育普及係スタッフ)
とのこと。日本に比べて年間を通じて温かく、1年を通して毎月20度を超える日があるマダガスカルの動物であることから、寒暖差が激しい日本の気候は体に応えたのでは、と心配にもなるものである。その点はどうだったのだろうか。
「意外なことにべザは冬場の方が元気。逆に真夏である7、8月ともなると採食量や行動量が落ちて管理が難しかったです。冷房をかけても屋外で寝ているなど飼育係を困らせることもよくありました。当園では、動物自身が過ごす場所を選択できるようにしておくことが重要であると考え、基本的には1年中、屋内と屋外を出入り自由にして管理していました」(前同)
一般的にフォッサの寿命は20年ほど。その中でべザは18歳と高齢を迎えていたため、晩年の飼育には特別な配慮も必要だったという。
「近年は体重測定や採血、細部の観察をこまめに実施。また、筋力が落ちないよう、ロープを使って前肢を鍛える運動をしたり、足腰の負担を考慮して床材のチップがふんわりとなるよう獣舎の環境も配慮していました。
視力の低下も著しかったですね。それでも、運動やストレス解消のためにと、舎内の木の組み方に配慮した上で、べザが高い所へ登れるような環境作りを行ないました」(同)