■“マダガスカル最強の捕食者”フォッサ 飼育に危険はなかったのか

 晩年は飼育係の尽力もあり、自然環境に近い状況で生活できたフォッサのベザ。そんなフォッサは”マダガスカル最強の捕食者”ともいわれる肉食獣。東西南北さまざまな動物を飼育する上野動物園のスタッフとはいえ、そんな“最強生物”を飼育するのは、危険との隣り合わせという面もあったのでは。その点について、前出の上野動物園・教育普及係スタッフは次のように答えてくれた。

「野生ではキツネザルを樹上まで追いかけて捕食することもあるフォッサは、餌の鹿肉や鶏頭を噛みちぎる顎の強さを持っています。安全な飼育のためには、同じ空間に入らないことが大前提。トレーニング中の餌やりの際もトングを使っていました」

 トングを使って餌やりを行なうという微妙な距離感の関係にあっても、飼育担当者とのコミュニケーションの中で、べザは愛らしい一面も見せていたそうだ。

「フォッサは嗅覚に優れた動物です。そのため、飼育担当が獣舎に近づくと寝ていても鼻を動かして気付いていたようにも見えました。獣舎内で作業中に時折窓から様子を覗いていることがあり、その姿はかわいらしいものでしたね」(前同)

 多くの人に愛されたフォッサのべザ。そんなべザに代表されるような、外国の絶滅危惧種を日本の動物園で飼育する意義とはなんなのだろうか。

「日本の動物園で外国の絶滅危惧種を飼育することは、生物多様性保全の重要性を伝える上で重要だと考えています。特に島国であるマダガスカルは生物多様性の宝庫でもあり、同国の固有種であるフォッサが見られなくなったことは、私たちも残念でなりません。今後も他のマダガスカル固有の生物の飼育繁殖に努めるなどして、生物多様性保全の重要性について伝え続けていきたいです」(同)

 自身の産まれ故郷から、はるか遠くにある上野動物園で18年の人生を終えたべザ。絶滅危惧種としての役目を終え、天へと旅立っていった。