■ビザ申請を拒否、入国できないケースも
不穏な中国の現状。ビザなしで入国できるほど優遇されていたコロナ禍前とは、状況が一変しているというわけだ。さらに、現地での拘束が相次ぐ日本人駐在員。中国国内での不穏な動きと歩調をあわせるかのように、中国への入国を日本人が拒否される例も相次いでいるという。
「マスコミ業界の関係者に多いですね。現地の大学への留学のためにと中国への渡航を試みて、ビザを申請したものの、許可がおりないという話は珍しくありません。反スパイ法が制定されている中国において、許可を得ていない者による取材活動は、スパイ活動と紙一重、との見方を当局は持っているのでしょう。
また、マスコミ業界で働く人間が、中国への旅行用のビザを取得する際には、“私は観光目的での訪中であって取材目的ではありません”と一筆書く必要があるほどです」(前出の西谷氏)
海を隔ててすぐ近く。飛行機で3時間半ほどの距離にありながら遠い国となってしまった中国。「この状況はビジネス業界にも大きな影響を及ぼしかねない」と西谷氏は指摘する。
「社員に危険が及ぶ可能性を否定できないとして、日本企業の間では中国駐在員の数を減らす企業が相次いでいます。現に22年末には、下着大手メーカーであるグンゼも、中国工場でのストッキング生産を終了。大手商社の中にも一時、出張を停止する企業が出たほどです」(前同)
これらの動きは、中国から日本へと輸出される商品の質にも大きく影響を及ぼしかねないようだ。
「中国の現地工場で勤務する日本人社員の数が減れば、日本企業が中国で製造して輸出している商品の工場管理や検品作業などを監督する現地の管理者も減るわけです。すると、商品の品質にも影響が出かねません。
また、23年6月に中国国内で記録された16歳〜24歳の失業率は過去最高となる21.3%。経済停滞や人件費の高騰が原因で、今後、中国製品の価格が上がる可能性は大いにある。若者の間で注目を集めている中国発の激安ファッションサイト『SHEIN』なども、価格訴求力が失われていく可能性は十分にあるでしょうね」(同)
大きく変化していっている大国・中国。コロナ禍で断絶された日中の関係が再び、友好になる日は来るだろうか。
西谷格
1981年、神奈川県生まれ。ノンフィクションライター。早稲田大学社会科学部卒。地方新聞の記者を経て、フリーランスとして活動。2009年に上海に移住、2015年まで現地から中国の現状をレポートした。主な著書に、『香港少年燃ゆ』(小学館)、『ルポ デジタルチャイナ体験記』(PHP研究所)など。