■「鉄の柵は壊すから」電気柵を設置“クマ対策のリアル”

 市民生活に影響を及ぼすようになっているヒグマとツキノワグマ。今後、国は自治体におけるクマ対策の専門人材や捕獲技術者の育成・確保を支援する、と報じられている。その点を前出の環境省・鳥獣保護管理室の担当者に尋ねると、

「国としては都道府県へと、クマ対策に使う指定鳥獣交付金を創設するということでして、実際にクマ対策に取り組む人材育成は各自治体が担当します」(環境省・鳥獣保護管理室の担当者)

 とのこと。ならばと、23年度全国最多となる2300頭ものクマが捕獲され、もはやクマ大国と化している秋田県の県庁自然保護課の担当者に、今後の人材育成方針を尋ねた。

「秋田県には現在、野生動物の専門家が女性2名、男性1名の計3名。専門職のメンバーを中心に市町村の職員へと毎年5月に、クマに対する座学と実践訓練における指導の場を1回ずつ用意しています。専門職の職員が指導をすることで、県内にいる職員のクマに対する知識向上を図っています」(県庁自然保護課の担当者)

 具体的にはどのような指導を行なっているのだろうか。

「実践訓練となりますと、実際にクマが出現した農地へと市町村の職員が出向き、クマの生態や行動形態を専門職の県職員から学んでいただきます。クマは柿の木などに誘われて、人里へと出てくることも多い。そういった知識を現場で得て、市町村での木の伐採活動などに活かしてもらうのです」(前同)

 他にも秋田県の市町村職員は、電気柵の設置などを実践訓練で学ぶという。

「クマの弱点は鼻と言われています。そのため、クマが出現すると農村地域では、20センチ幅で3段、計60センチとなる電気柵を田んぼや畑の周りに設置して撃退する。クマは鉄の柵ですと壊したり、登ったりしてしまう。唯一クマに対して効果的と言われているのが、電気柵。これの設置方法は、実践訓練でしか学べません」(同)

 国からのクマ対策交付金の給付を秋田県としては、どのように受けとめているのか。

「秋田県としても高齢化などの影響もあり、財政状況は非常に厳しい。市町村の職員へとクマ対策を教える座学講座と実践講座の開催にも、外部講師を県外から招いたりと、年間で800万円ほどの予算が掛かります。国からの交付金を活用し、毎年継続的にクマ対策講座を開催し、市民の安全を守れればと思います」(同)

 国も本腰を入れて取り組み始めたクマ対策。人間とクマの戦いは始まったばかりなのかもしれない。