■縁側は心を通わせて大事な話をする場所

 炬太郎は、デリバリーの仕事を甘く見ていた。注文品をただ届ければいいと考えていたが、不本意なミスで怒られてしまう。お届け予定時間を大幅に遅れて配達した先では、揶揄され動画撮影までされてしまう不運もあった。お届けが遅れたことには理由があったが、仕事を通して人と接することの難しさを、身をもって知ることになる。

 自分に非はなくてもクレームを言われてしまうなんて、困ってしまうし不満を言いたくなるだろう。だけど、グッと我慢をしてお詫びの言葉を伝える炬太郎は、いち社会人として仕事をしていた人だった。そして、なんとも炬太郎らしいのが、仕事以外の部分で評価されるところだ。

 配達中に困っている人を助けたことで、お礼のコメントが届いた。それは、かつて会社員だった炬太郎が憧れていた先輩と同じように、“道行く見知らぬおばあちゃん”を助けていたのだった。配達をしなければならない、だけど、目の前で困っている人を見過ごすことができない。このときの炬太郎は、小学生時代に同級生にいじめられていた親友を助けてあげたときと同じ目をしていた。

 少年野球では万年補欠だったし、大人になった今でもパッとせずバイトの身。だけど、人として大事な部分は変わっていなかった。デリバリーの仕事をさげすみ、卑屈になっていた炬太郎を一喝した同居人・天も、これには喜んだ。

 天は炬太郎が大好きだから、下向きな感情で不満を言い、自分を軽視する炬太郎が許せなかっただけなのだ。仲直りに温かいお茶を入れて、焼き芋を半分にして食べる二人の姿がほほ笑ましくて、ちょっと泣けてくる。仕事の評価はほどほどでも、人間的に星5つ・満点の炬太郎には、きっといいことがある。天がそばにいることで、もっと頑張れるだろう。(文・青石 爽)