■アメリカのように“住む家がない”状況になるのか
前出の住宅ジャーナリストの榊淳司氏はこう話す。
「現在でも都心23区の新築マンション価格は平均で1億円超。住宅ローンの安全圏は年収の7倍までと言われています。となると、年収1500万円以上の人でないと新築マンションは都内で買えない。この状況で月の返済額が増えるとなれば、新規で住宅ローンを申し込むのには足踏みする人が出てもおかしくありません」
ここで選択肢として多くの家族の間で浮上するのが、夫婦の収入を合算した上で、住宅を購入するペアローンだ。ただし、ペアローンには大きな落とし穴があると榊氏は話す。
「ライフステージの変化です。子どもが生まれて夫妻のどちらかが働けなくなる可能性もありますし、離婚だって起こりうる。今までは8000万円で購入した物件が1億円以上で売れることもあった。これなら夫妻が離婚をしても経済的な損失はありません。ただし、金利が上昇して不動産市場の動きが鈍れば、物件価格が下がり、残債割れ(※不動産を売却しても残債務を完済できない状態)となる可能性もあるのです」(前同)
金利上昇により、所有物件が大幅下落。夫妻の離婚によって家族も失い、住む家も喪失。転落人生を歩む家庭も出現しかねないのだという。不動産市場に大きな変化が起きる際には必ず、その兆しが見られると、榊氏は話す。
「不動産市場が下落する前には“フリーズ”といって、新築物件が売れなくなる、中古物件に買い手がつかないという状況が生まれます。ただし、“フリーズ”に入った状況というのは誰にもわかりません」(同)
では、賃貸物件の価格は、どのように変化するのだろうか。
「賃貸物件は投資目的で購入する人もいる分譲マンションとは違って、100%実需です。コロナ禍が明けたこともあり、今年の2月〜3月にかけて東京では単身者向けの8万円〜10万円ほどの1人暮らし用物件が値上がりしました。需要がある地域では賃料は上がるでしょうし、それ以外の地域では値上がりすることはないでしょう。金利の変化よりも実際の需要に基づいて、賃料は変化する傾向にあります」(同)
日本でも、アメリカのように住む家がないといった問題に直面する人が増えるのだろうか。
「日本の場合、アメリカのように急激に金利が上昇するということは考えにくい。また、場所を選ばなければ、賃貸であれば空き物件はたくさんあります。金利の上昇が原因で持ち家の購入を控える人は出ても、予算内で部屋が借りられないという人はなかなかいないのではと」(同)
需要と供給によって決まる不動産価格。買う人や借りる人がいれば、価格は上がる。
「六本木や赤坂、新宿といった都心のど真ん中の一等地ならばいざ知らず、山手線の外側や郊外地域の不動産価値がいつまでも上がるとは考えにくい。不動産購入を考えている人は急ぐのではなく、待ってみても良いかもしれません」(同)
2024年の不動産市場の行方は、はたして――。
榊淳司
不動産ジャーナリスト・榊マンション市場研究所主宰。1962年京都市生まれ。同志社大学法学部、慶應義塾大学文学部卒業。主に首都圏のマンション市場に関する様々な分析や情報を発信。『マンション格差』(講談社)、『マンションは日本人を幸せにするか』(集英社)など著書多数。