■『二重価格制度』の懸念点は――
訪日外国人観光客と在留者とで異なる価格設定を行なう『二重価格』。現在、この制度を導入する選出の東京・渋谷の『海鮮バイキング&浜焼きBBQ 玉手箱』では、平日のディナーが通常価格7678円(税込・以下同)。日本国内在住者は1100円引きの6578円で提供している。そこで気になるのが、来店客と会計時に金額を巡ってトラブルになることはないのか、ということだ。
「予約時の料金設定の段階から明記しているのでトラブルになることはないですね。牛串やマグロ串を4000円とか5000円で売っているというニュースも見ますが、そこまでしようとは思わないです。そうなると国内のお客さんは来られなくなってしまいますし。
金額を分けることで、来店する外国人観光客の方の数を調整できれば店舗やスタッフの負担も減って、お店の運営も行ないやすくなるかなというところです」(前出のオーナー米満さん)
では、訪日外国人観光客と在留外国人の区別はどのようにつけているのか。
「日本語がしゃべれるというのが1つの基準ではあります。そうするとバイキングのルール説明も楽ですし、スタッフにも負担がかかりません。もちろん、留学生でまだ日本語が不自由という人であっても在留者ですので在留者価格で提供しています。日本で頑張っているわけですし、あんまり運用基準を厳密に設けるのもいかがかなとも思いますし」(前同)
前出の小売・サービス業界に詳しい経営コンサルタントの岩崎氏が、訪日外国人観光客を対象とした二重価格制度を飲食店が導入する上でのリスクを話す。
「リスクは、“差別問題”と捉える方も出るかもしれない、ということ。また、二重価格を運用したいからと店舗スタッフが接客時に“日本人の方ですか? それとも外国人の方ですか?”と尋ねること自体がトラブルへと発展する危険もあります。
来店客と店舗スタッフが口論となった映像がSNSへとバラ撒かれれば、店としても大きなダメージです。また、マクドナルドやケンタッキーのように世界規模で事業展開を行なうチェーン店は、そもそも為替レートの違いから、同じメニューであっても国ごとの販売価格は異なります。わざわざ、二重価格制度の導入自体に踏み切らないでしょう」(岩崎氏)
一方で、サービス業の現場では二重価格の導入に踏み切りやすいのでは、と岩崎氏は言う。
「オーバーツーリズム問題の影響を受けやすい文化施設の入場料などは二重価格を導入しても良いのではないでしょうか。
地元の自然環境や文化を守るため、地域住民の生活を支えるためと説明すれば、周囲の納得も得やすい。二重価格を支払う側である、外国人が納得してお金を支払えるかが二重価格制度導入の成否をわけそうです」(前同)
訪日外国人観光客の数は右肩上がりだが、それに伴い対応スタッフの負担も急増中。サービスを提供する側にも、享受する側にも“嬉しい”価格設定が求められる。