■専門家が話すクマを遠ざける対策

 5月31日の未明、住民2人がクマに襲われる悲劇が起きてしまった群馬県安中市。市がホームページ上に掲載している、地域住民へ向けたクマ対策の注意喚起は有効なのだろうか。前出のパンク町田氏は話す。

「非常に良い内容だと思います。クマに“襲われていない”状況であれば、目を離さずにゆっくり後ろへ下がるのが良い。襲われてしまった場合には、催涙スプレーを使うしかありません。ただし、気をつけて欲しいのは、人間用のスプレーではクマ撃退に十分ではないことがあるということ。使用するなら、唐辛子などが含まれたペッパースプレーが良いでしょう」

 今回、クマが住宅へと侵入したのには理由があるという。

「住民の方が窓を開けたから、ですね。住宅周辺を歩いている際に、住民が窓を開けたものだからクマも驚いた。刺激を受けたことで攻撃モードに入ってしまい、クマも民家へと侵入してきたのでしょう。再度言いますが、クマは警戒心が強い生き物。クマも家に押し入りたかったわけではないと思います」(前同)

 住居に入られるのは絶対に阻止したいが、クマが自宅周辺をウロウロしているだけでも恐怖。その対策についてパンク氏は話す。

「クマを遠ざける対策として、高い効果が見込めるのは犬の活用ですね。クマは犬を嫌がります。かつて日本にもいたオオカミは、母グマとはぐれた子グマを捕食していました。クマにとってみれば、オオカミは天敵なんです。クマはオオカミと犬の区別がつきません。昔のように犬を自宅の周辺に放し飼いにしておけば、クマも“これ以上先に進むのは危ない”と感じる。犬は人間とクマの生活圏の境界線としての役割を果たすのです」(同)

 現に北海道札幌市や長野県軽井沢町では、クマを人里から山中へと追い返すためにベアドッグを導入。ベアドッグとは、クマの匂いや気配を察知すると大きな声で吠えたて、クマを人里から離れた山奥へと追い払う役割を担う犬のことだ。特別な訓練を受けており、人間の命令に応じて吠えるので、人へは危害を加えないという。

 また、人間がクマに遭遇しないようにするためには、さまざまな対策法があるようだ。しかし、今回のように突然、クマが人前に現れた場合だと――、

「対処のしようがないですね。クマは小さいものだと30キロ〜40キロほどなのですが、それでも人間よりはるかに力が強いのです。遭遇して襲われてしまったら、対処は無理ですね……」(同)

 近年、大きな社会問題となっているクマ問題。そんな中で起きた「住宅にクマ侵入」で、住民が大ケガをするという事件のインパクトは大きい。クマ対策はもはや待ったなしだろう。

パンク町田
1968年東京生まれ。
NPO法人生物行動進化研究センター理事長、アジア動物医療研究センター長。特定非営利活動法人日本福祉愛犬協会(KCJ)理事。
日本鷹匠協会鷹匠、日本鷹狩協会鷹師、翼司流鷹司、鷹道考究会理事、日本流鷹匠術鷹匠頭。
昆虫から爬虫類、鳥類、猛獣などあらゆる生物を扱える動物の専門家。
野生動物の生態を探るため世界中に探索へ行った経験を持ち、『飼ってはいけない(禁)ペット』(どうぶつ出版)は大ヒットとなった。動物関連での講演、執筆、テレビ出演など多方面で活躍中。