■「仮面ライダー俳優だからとかじゃないですよ」

 今回、余命約1か月と診断された『仮面ライダー』が大好きな少年に直接会いに行き、サプライズでプレゼントをし、少年を笑顔にしたという井上さん。そして、Xで仮面ライダー俳優に呼びかけた母親の胸の中にあったのは「病気に打ち勝つ目に見えない力を与えてあげたい」という想いだった――。

――井上さんはよく、「仮面ライダー俳優」として人から期待されたり、使命感を感じることがあると思われますが。

井上 (今回の件は)仮面ライダー俳優だからとかじゃないですよ。その使命感って感覚的にだいぶ違う印象あります。単純に子どもの無邪気な笑顔が見たい、子どもの力になりたいって思うのは、人間としての使命感ですよ。 会うだけで力になれるなんて、こっちが逆に嬉しいじゃないですか。

 俳優をやっていて、根本的に何がしたいのかって思ったときに、誰かが喜んでる顔が見たいだけだなと思ったんです。だから、そのために俳優活動してるわけで、今回のことは当たり前のことだと思うんです。

――今回、Xで同行を呼び掛けていましたが、連携した他の仮面ライダー俳優について思うことを聞かせください。

井上 今回はXでしたけど、『仮面ライダー』に出演させていただくと、今回のようなメッセージや手紙はたくさん届くんです。もちろん全部を全部返せてるわけではないですが、動画送ったり、手紙送り返したりしてます。

 他の仮面ライダー俳優さんもそうしてると思います。今回はSNSでそれが可視化しただけであって、今回だから動いたってイメージ強いですが、そうではないんですよね。そうしたなかで、できる範囲でみんなが行動をする、個人も会社も。僕はそれがいいと思います。

 表には出てないから誰とは言わないですが、事務所の方と少年の母親がやり取りして、僕の前にも1人俳優が面会してたみたいです。いろんな人と会えて嬉しかったって少年も喜んでましたよ。

闘病中の少年 ※少年の母親より提供

――最後にあらためて、伝えたいことがあればお願いします。

井上 実際、僕は少年にお会いして、SNSで抱くイメージとは全然違うもので、そこを正確に皆さんに伝えていくのって本当に難しいなと思ったのと同時に、なるべく正確に伝えていきたいなとも思ってます。憶測を呼びすぎて事実がねじ曲がったり、 美談が美談を呼んで、現実離れしちゃうのも違うと思いますし。

 SNSってスクランブル交差点を歩いてる人のようにいろんな人たちを見ることができて、上手く使えばいろんな人の想いを感じることができたり、たくさんの情報が得られるものと思います。ただ、誹謗中傷だけは、道ゆく人をいきなり殴りつけるのと同じ行為だと思うので、こういう行為がなくなっていくとより良いなと思ってます。

※   ※   ※

 仮面ライダーは作品内で、単に悪と戦う戦士というだけでなく、人類の希望の象徴として扱われることも多い。彼らが少年と母親の希望となっているのだけは間違いない。

(文/特撮ライター・トシ)

井上正大(いのうえ・まさひろ)
神奈川県出身。株式会社AICライツ代表取締役社長。2009年に平成仮面ライダー10作記念作品『仮面ライダーディケイド』にて“門矢士/仮面ライダーディケイド”として連続テレビドラマ初出演・初主演を飾る。役者業以外でも舞台の演出やアニメ制作会社、YouTube特撮ドラマプロジェクト『華衛士F8ABA6ジサリス』のプロデュースなど、多方面でクリエイティブな活動をしている。