■弁護士が解説 悪質“クレーム行為”が罰金10万円のワケ

 カスハラ客による悪質な嫌がらせ行為が原因で、店は閉店に追い込まれているにもかかわらず、なぜ加害者の罰金はわずか10万円で済まされてしまうのか。労働問題に詳しい旬報法律事務所の新村響子弁護士が取材に対して解説する。

「1つはカスハラが、お客さんと店の間で起きたトラブルに過ぎないと見なされているからです。企業内や取引先との間で起きやすいパワハラやセクハラとは違い、カスハラは企業で働く人と組織の外の人であるお客さんとの間でのやり取りです。

 企業としても対処することが困難で、警察としてもお客さんから会社へのクレームを脅迫や業務妨害と線引きするのが難しい。刑事事件として扱うのは難しいというのが実情です」(新村弁護士)

 また、日本社会独自の考えや商習慣もカスハラを生みやすい環境を作り出しているそうだ。

「“お客様は神様です”との考え方も危険です。些細なミスで店員さんがお客さんに“申し訳ありません”と謝る日本の商習慣もカスハラが横行しやすい原因です」(前同)

 近年ではカスハラ客に“NO”を突きつける企業も急増中。JR西日本は今年5月に“カスタマーハラスメントに対する基本方針”と題した声明をHP上に発表。悪質なカスハラ客には警察や弁護士と連携した上で、法的措置を含め対応する可能性を示唆した。

「ポスターが1枚、車内に貼ってあるだけで、人の心理は変わります。大手企業がカスハラは刑罰の対象になり得ますよと利用者に警鐘を鳴らすだけで、抑止力はあるのでは。企業内でもお客さんへの対応を従業員個人の技量に任せるのではなく、過去の事例をもとにマニュアル作成などをする必要があるでしょう」(同)

 東京都では全国に先駆け、カスハラ防止条例の制定が今秋にも見込まれる。店員に少し“注文”をつけただけと思っていたとしても、一歩間違えれば、捜査機関から“物言い”をつけられかねないクレーム行為。悪質なクレーム行為にはくれぐれもご用心を。

新村響子
一橋大学法学部卒業。弁護士。主な担当分野は労働事件や離婚問題、少年事件など。旬報法律事務所に所属する。