■こたつの温かさと音の優しさがしみいる夜

 空豆は、ご縁があって高級有名ブランドに紹介で入社することになった。思いのままに描いたデザイン画がプロ並みで、トップデザイナーの右腕になるほどの期待を持ってもらえるなんて、本当に夢のような話なのだが、きっとそういう世界があるのだろう。

 知識や経験がなくても成し遂げてしまう人は世の中にいるかもしれないが、そをれが空豆だというのなら、音の焦りも理解できる。コツコツと音楽と作り続けて、やっとデビューのチャンスをつかむところまできた自分とは比較にならない。深夜まで作業していたのだろう、テーブルにはノートパソコンやノートを広げたままうたた寝をする音がいた。座布団を枕にこたつ布団をかぶる音に、日々努力している様子がうかがえて応援したくなる。

 そんな音を見つけ、こたつに入って横になる空豆。寝つけない夜に、音がいてくれる安心感が伝わってくる。足でつついて起こす空豆に、「怖い夢でもみた?」と返してくれる音の声が優しい。空豆にとって、音は自分を守ってそばにいてくれる存在だ。だけど、恋人というより、家族や親友の感覚に近い。それは音も感じていて、空豆から「私たちは恋愛にはならないよ」とバリアを張られているような気がしたという。

 ふたりの距離感を、こたつに座る角度の90度だという表現が絶妙だ。顔が見えて、触れることもできる。だけど、触れ合うことで相手の体温を感じたり、においや小さな仕草で幸せな感情を共有することはない。愛しい相手になるには、まだ時間がかかりそうだ。(文・青石 爽)