■「選挙ポスターが大人のバカッターと化している」

 少々驚きの選挙ポスターの“NG規定”ナシーーそれでもなぜ今回、過激な選挙ポスターが掲示板へと張り出されることになったのだろうか。『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社)などの著書があり、自身も大手広告代理店・博報堂に勤務し、政党のPR活動にも携わった経験がある中川淳一郎氏に話を聞いた。

「日本で1番大きな地方選挙である都知事選へと立候補すれば連日、新聞やテレビでも取り上げられるわけです。今回、女性を起用した過激なポスターが話題になった河合候補にしたって、“バカな候補者が出た”という文脈で複数のメディアが取り上げている」(中川氏)

 河合候補の件を取り上げたのは、産経新聞や東京スポーツなど大手メディアも含まれる。

「産経新聞や東スポの記事は大手ニュースサイトへと配信されます。河合候補本人は、これだけメディアで自分のことが話題になるなら“たとえ落選して300万円の供託金を払ったとしてもおしくはない”と思っているのではないでしょうか」(中川氏)

 さらに中川氏は、

「95%の有権者は眉をひそめるかもしれないですが、バカな行動をすることで5%でも自分の支援者が増えれば儲け物。要は選挙ポスターが大人のバカッターと化しているんです」

 と話す。バカッターとは2013年にツイッター(現・X)上で話題となった騒動のことだ。自身の反社会的な行動をネット上でさらけ出すことで、自身の承認欲求を満たす行為を指す。

「選挙期間中に子どもの目にも入るのに、ルールで禁止されていないからと、ほぼ裸の女性を起用した選挙ポスターを貼ること自体、あまりにも常識がない。選挙を売名行為の場としか捉えていない候補者が多すぎです」

 と中川氏は思いを語る。そして中川氏は今後、より過激な選挙ポスターが登場する可能性を指摘する。

「都知事選や府知事選のような大都市圏の首長を決める選挙は注目度も高く、盛り上がりやすい。今回の河合候補の一件をきっかけに、さらに手の込んだ注目を浴びやすいパフォーマンスを考える候補も出てくるでしょう。

 都知事選のように注目度が高い地方選挙を売名行為の場としたくないならば、候補者にも“政治活動歴3年”などの候補者資格を設けてもよいのでは」

 市民生活の根幹にも関わる選挙活動。だからこそ、候補者にも投票者にもモラルが求められる。

中川淳一郎
1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり、2001年に退社。その後、多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わる。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など多数。最新刊は『日本をダサくした「空気」』(徳間書店)。