■電動キックボードと電動スーツケースの大きな違い
また、電動キックボードと電動スーツケースには大きな違いがあるという。
「2023年7月1日に施行された改正道路交通法だと、車体の大きさが長さ190センチ以下で幅60センチ以下、時速20キロ以下で走る電動モビリティーは、特定小型原動機付自転車という扱いになりました。“小型原付”扱いですので公道を走る際は、ナンバープレートの着用が必須となります。一方、あくまでも公道以外での使用を目的としている電動スーツケースにはナンバープレートは取り付けられていません」(前出の疋田氏)
最高時速20キロ以内で街中を走る特定小型原動機付自転車は、16歳以上であれば運転免許は不要。ただし、公道を走る際にはナンバープレートは必須となる。そのため、特定小型原動機付き自転車としての規格を満たしているにもかかわらず、ナンバープレートを装着していない電動スーツケースは公道を走ることができないというわけだ。また、電動スーツケースには安全上、大きな欠点があると疋田氏は指摘する。
「電動スーツケースはリチウムイオンバッテリーを使っている。リチウムイオンバッテリーはまれに発火事故が起こります。その際に特殊な消火器を使う必要があるんです。空港で火事が起きた際にも、万が一この特殊な消火器が手の届くところになければ大惨事へとつながりかねません。日常利用に向いているとはとても言えませんね」(前同)
電動キックボード同様に電動スーツケースが街中で頻繁に目撃される――という日が来ることはどうやらなさそうだ。
疋田智
1966年生まれ。東京大学工学系大学院(都市工学)修了、博士(Ph.D.環境情報学)。大東文化大学客員研究員、学習院大学、東京都市大学、東京サイクルデザイン専門学校等非常勤講師。毎日12kmの通勤に自転車を使う「自転車ツーキニスト」として、環境、健康に良く、経済的な自転車を社会に真に活かす施策を論じる。NPO法人自転車活用推進研究会理事。著書に『ものぐさ自転車の悦楽』(マガジンハウス)、『自転車の安全鉄則』(朝日新聞出版)など多数。