渋沢栄一、津田梅子、北里柴三郎。7月3日から発行され、20年ぶりにデザインが一新される10000円札、5000円札、1000円札の新しい顔ぶれだ。本来であれば祝事であるはずの新紙幣発行。しかし、紙幣の顔に選ばれた歴史上の偉人も眉を顰めかねない事態が裏側では横行しているという。

「国で新札の発行枚数を決める調査をしています。自宅に現金を保管していれば、預けてください。すぐ返しますから」

 こんな誘い文句を受話器越しに伝える電話が、金融機関の職員を名乗る人物から今年3月以降、高齢者の自宅を中心に頻繁にかかってきているという。

「都内だけでも80〜90代の男女4人が電話を受けた後、自宅に訪れた人物に現金を渡しています。その総額はおよそ1500万円とのこと。SNS上でも“新紙幣発行後は旧紙幣が使えなくなる”といった誤った内容の書き込みも見られますね」(全国紙社会部記者)

 この手の手法を「古典的な詐欺」と断じるのは元神奈川県警刑事の小川泰平氏。

「私が現職刑事として働いていた20年前の紙幣デザイン変更の際にも全く同じような詐欺が流行りました。私が捜査を担当したことがあるケースですと、“新紙幣を発行するので旧紙幣は使えなくなります。ですから、新紙幣を預けてください”といった電話が自治体職員や金融機関職員、郵便局員を名乗る人物から高齢者宅へとかかってくるんです。

 これらの詐欺の特徴は電話越しに“円安だから”とか“インフレが進んでいるから”といった受け手の不安を煽るワードを織り交ぜてくる点です。中には“旧紙幣は新紙幣の10分の1の価値になる”と言われ、新紙幣との交換を迫られたという被害者の方もいましたね」(小川氏)

 他にも新紙幣発行のタイミングで、プレミアム感を漂わせ金銭を奪い取ろうとする詐欺もあると小川氏は話す。

「新紙幣が発行されるタイミングで、“特別に紙幣番号が連番やゾロ目になっている紙幣を手配します”という電話を高齢者宅へとかけてくるのも常套手段ですね。“新紙幣発行前に10万円を指定の口座に振り込んでくれたら、連番やゾロ目の紙幣を同額分指定の住所に送ります”というわけです。被害者に“あなただけが特別な紙幣を手にできる”と思い込ませることで、特別感を与え、お金を奪い取る手口です」(前同)