■『1955東京ベイ』競合との差別化はできているが懸念点も

 星野リゾートのブランドを冠して“新装開店”という形でTDR周辺に誕生した『1955東京ベイ』は成功するのか。星野リゾートブランドと浦安エリアの相性はいいと前出の瀧澤氏は見る。

「ホテルにはさまざまな種類があり、宿泊という機能に特化したビジネスホテルのような業態から、宿泊以外にもウエディングやバンケット(宴会)といったサービスも提供するフルサービスタイプ、日系や外資系の高級ホテルまでありますよね。

 そんななか、星野リゾートのテーマは“旅を楽しくする”。ただ泊まるだけでなく、その地域の文化や風俗をそれぞれの宿の中に落とし込むことが得意で、“体験”ができることに魅力を感じ訪れるゲストもいるほどです。今回の『1955東京ベイ』もTDRを意識した、55年頃の古き良きアメリカというコンセプトが立っていますし、ホテルビジネスとしても親和性は高いなと思います」(瀧澤氏)

 しかし、懸念点もあるという。

「周辺ホテルと比較して差別化はされているけども、ホテルは数十年単位のビジネスだけに、このコンセプトにどれだけコアリピーターが生まれ続けるか。最初のインパクトは際立っており、目新しい印象を与えていますが、何度も行けば飽きてしまうのではないかという懸念はあります。

 昨今のホテル業界は競合が激化する中で、差別化のためにコンセプトの先鋭化が進む傾向にあるのですが、尖れば尖るほどニッチになってしまうという難しさも。ただ、“TDRに行くための拠点”としての安いホテルよりも、もう少し満足度の高いポジションを狙っているところはありそう。星野リゾートはファミリー向けの客室を充実させる傾向にありますしね」(前同)

 TDRオフィシャルホテルに泊まるのは難しいが、安価な周辺ホテルで選択肢が複数あるなら、せっかくだからオシャレで新しい、コンセプトのあるホテルを選ぶ――そういった需要があると踏んだということなのかもしれない。果たして星野リゾートの『1955東京ベイ』は、TDR旅行の新定番ホテルとなるだろうか。

瀧澤信秋
1971年生まれ。ホテル評論家、旅行作家。国内ホテルを対象に、利用者目線やコストパフォーマンスを重視した取材調査、評論、批評を行う。財団法人宿泊施設活性化機構理事、一般社団法人宿泊施設関連協会アドバイザリーボードを務めるほか、多数メディアでも幅広く活躍。著書に『辛口評論家、星野リゾートに泊まってみた』(光文社新書)など。