綺麗な額縁に収められ、紹介文とともに壁に絵画が飾られている美術館。来館した老若男女がじっと見つめる先にあるのは、高名な作家により描かれた歴史的絵画、のはずだったのだがーー。

 聞いた瞬間、誰もが“まさか!”と驚くような事態が発覚したのは7月12日のことである。

「徳島県立近代美術館に所蔵されている、フランスの画家ジャン・メッツァンジェが描いた『自転車乗り』(取引価格6720万円)と、高知県立美術館にあるドイツの画家ハインリヒ・カンペンドンクの作品である『少女と白鳥』(取引価格1800万円)が、“贋作の疑いが高い”と発表されました。両作品とも1910年代に本物の作品は作られています」(全国紙社会部記者)

 県立美術館の職員の目をも欺いたのは“伝説の贋作師”と、業界内では呼ばれるドイツ人のヴォルフガング・ベルトラッキ。2011年には、14点の絵画を偽造した罪に問われ、有罪判決も受けている。

 今回の贋作疑いの発表直後にメディアの取材を受けたベルトラッキは、「両作品とも自分が(贋作を)作った」と認めている。美術館に自身が描いた贋作が飾られるベルトラッキとはどの様な人物なのか。『画商が読み解く 西洋アートのビジネス史』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)などの著書がある高橋芳郎氏に、弊サイトは話を聞いた。

「稀代の贋作師としてベルトラッキは美術業界で知られています。贋作を作る際はその作家のことを徹底的に調べ上げ、作風をマスターするのは彼にとって当たり前。それだけでなく作家の作品目録を調べあげ、紛失されている絵などを見つけ出してはその絵を描く。自身が描いた絵が贋作だとバレないようにと、緻密な戦略を立てる贋作師です」(高橋氏)

 多くの贋作を製作し億万長者となったというベルトラッキ。そのベルトラッキの贋作師としての腕前を証明するかのように、徳島県立近代美術館で飾られていたジャン・メッツァンジェの作品『自転車乗り』には、その絵が本物であることを証明する鑑定書まで付与されていた。

「この作品は1995年に世界最大のオークションとして知られるクリスティーズで取引されています。クリスティーズに出品される商品はオークションの主催者が指定する鑑定士の鑑定書が必要です。鑑定書が偽造されているとは思えないので、鑑定士さえも騙されるほど精巧にできた贋作をベルトラッキは作れるということでしょう」(前同)