「これまでのホラーとはまったく違う恐怖感を味わえる『モキュメンタリー』というジャンルがこの夏、アツいんです」(文芸誌編集者)

 モキュメンタリーとは、映像作品などにおけるひとつのジャンルで、フィクションを本物のドキュメンタリーのように演出する表現の方法。疑似を意味する「モック」と「ドキュメンタリー」を合わせて、「モキュメンタリー」と呼ばれている。

 古くは1983年(日本公開)のイタリア映画『食人族』や、1999年に一大ブームを巻き起こした『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』など、主にホラージャンルの一つとして人気を博してきた。

 近年でも、雨穴(うけつ)氏がWeb媒体であるオモコロやYouTubeで発表した『変な家』は、2021年に書籍化(飛鳥新社)され、続編と合わせて250万部を記録する大ヒット。続く『変な絵』(双葉社)も80万部のベストセラーで、現在、世界27か国での出版が予定されているという。

 また、2023年に小説投稿サイト「カクヨム」に掲載された背筋(せすじ)氏の『近畿地方のある場所について』も口コミで人気を博し、昨年、書籍化(KADOKAWA)されて20万部を超えるヒットを飛ばすなど、モキュメンタリーホラー書籍が軒並みベストセラーを叩き出している。

「いずれの作品にも共通しているのは、モキュメンタリーの手法を用いつつ、ただのホラーではなく、ミステリーの要素もふんだんに取り入れていること。作品の展開に合わせて、何が起きているのか読者自身に“推理”“考察”させるのが特徴です」(前同)

■“やりすぎなホラー”は嫌いという人にうってつけなチャンネル

 こうした“考察系”のモキュメンタリーホラーにおいて、「リアル過ぎてめちゃくちゃ怖い」と最近SNSでも話題になっているのが、『フェイクドキュメンタリーQ』(以下=『Q』)というYouTubeのホラー動画だ。

 登録者数23万人越え、各動画の再生数は20~80万回再生を誇る人気チャンネルで、いわくつきの個人撮影映像や、お蔵入りになったテレビ番組の取材映像などが『Q』の元に持ち込まれ、それを再編集した動画が公開されている。

 たとえば『封印されたフェイクドキュメンタリー』というタイトルのものは、番組取材をするディレクターとカメラマンが「呪われたビデオ」の噂を追いかけるという内容で、彼らが現地取材をする様子や、「見たら死ぬ」ビデオの不穏な映像、なぜ「お蔵入り」になったのかという経緯など、ドキュメンタリー調の緊迫感ある映像になっている。

『Q』も雨穴氏や背筋氏の作品同様、映像中に様々な情報を織り込んで、「いったい何が起きているのか」「真相は何か」ということを視聴者に考察させる。

「このような手法は、2003年から不定期で放送される人気ドラマ『放送禁止』シリーズ(フジテレビ)を彷彿とさせます。ただ、考察すればある程度の真相に辿り着く同作とは異なり、『Q』ではいくら考察を重ねても、はっきりとした解答は得られず、真相は闇に包まれたままという点が特徴です」(前出の文芸誌編集者)

 視聴者は、繰り返し動画を観て、細部を観察し、考察を重ねることで、「これが真相ではないか」という自分なりの答えに辿り着く。『Q』のファンによれば、この作業が思いのほか面白く、観た者同士で互いの考察を披露し合うのも醍醐味のひとつであるという。