■“爆発リスト”の筆頭格

 事実、今年もすでにスマホ出火は事件となっている。

「7月20日、長野県野沢温泉村で、車のダッシュボードが焼ける火事があったのですが、車内にあったモバイルバッテリーから出火したものとみられています」(夕刊紙記者)

 さらには、この時期必須の殺虫スプレーや冷却スプレーも“うっかり置き忘れ”に要注意。ほかにも消毒用アルコールやライターなども“爆発リスト”の筆頭格だという。

「JAFは車内温度の実証実験をやっているのですが、その結果として『スプレー缶などの可燃性の高い危険物を車内に置くことは避けるべきである』と語っています」(前同)

 やはり、車内は部屋の中とは全く違う状況なのだ。

「自動車の中というのは、かなり特殊な環境なんです。暑くもなるし、寒くもなる。暗くもなるし、明るくもなる。家の中では考えられないほど揺れるうえに、タテ・ヨコ両方からのG(重力加速度)もかかるわけで……。

 ところが各商品のメーカー側は、そんな特殊な環境下で使用されることを想定していない。たとえばディーラーオプションでつくようなカーナビだったら、高温でも爆発事故は起きないでしょう。もしそんなことになったら、集団訴訟を起こされますから」(渡辺氏)

■置き忘れるくらいなら持ち込まない

 もし商品開発者が70℃でも耐えられるような製品作りを行なうとしたら、コスト的にはかなりの負担となる。その分が価格に上乗せされることは間違いないだろう。競合他社とのバトルを考えると、なかなか踏み切れる道ではない。

「危ないのがわかっていても、たとえばちょっとコンビニにタバコを買いに行くときなんて、いちいちノートパソコンや虫よけスプレーを持ち歩くのは面倒くさいですよね。そういう場合、後部座席の床に置けばいいと思います。車内温度というのは、場所によってかなり違うものなんですよ」(前同)

 同様に窓を全開にするというのも温度を下げるためには有効だが、盗難被害に遭うリスクを考えると現実的ではないだろう。加えて直射日光下ではさほど温度が下がらないという問題もある。

「“赤ちゃんを車内に置きざりにしてはいけない”というのは、すでに社会的にも周知されています。でも、モバイルバッテリーや炭酸ペットボトルはそこまで常識化されていない。基本的に車の中に置きっぱなしにしていいものなんてないんですよ。置き忘れるくらいだったら、むしろ車の中にモノを持ち込まない習慣をつけたほうがいい。

 最近の日本の軽自動車はトレイがあちこちについていて、“サイフでもジュースでも、どうぞ好きに置いてください”と言わんばかり。ちなみに、ドイツ車なんて余計なトレイが最初から設置されていないですからね」(同)

 酷暑は続く。炭酸系ペットボトル、精密機器、モバイルバッテリー、スプレー缶、ライターなどの置き忘れには特に気をつけてほしい。少しくらいの時間なら大丈夫だろうと、車を離れたら、愛車が炎に包まれていた――なんてことが、ないようにしたい。

渡辺陽一郎
わたなべよういちろう。1961年生まれ。日本カーオブザイヤー選考委員。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、フリーに転身。