■西武新宿線・上井草で国民的人気アニメの主題歌が流れる理由

 発車メロディにはアニメソングも多く取り入れられている。西武新宿駅から30分と少しの距離にある西武新宿線上井草駅(東京都)では、1979年に放送されたアニメ『機動戦士ガンダム』(テレビ朝日系)、いわゆる“ファーストガンダム”の主題歌『翔べ!ガンダム』が流れる。

 上りホームは曲の冒頭部、下りホームはサビの部分を使用している。なぜ、上井草でガンダムなのか? 

「それは、『ガンダム』の制作会社『サンライズ』の最寄り駅だったからです。なお、南口にはガンダムのモニュメントもディスプレイされており、“ガンダムの故郷”といった趣もある。ガンダムファンなら一度は行きたい駅だといえます」(アニメライター)

 また、JR山陰本線由良駅(鳥取県)は、“コナン駅”なる別名がある。『名探偵コナン』の作者・青山剛昌氏の出身地だからだ。

「駅舎に『名探偵コナン』関連の展示があり、駅周辺の他、駅前広場から全長約1500メートルの区間に『コナン』のキャラクターを中心とした青山剛昌作品のオブジェが設置されています。また、同じ東伯郡北栄町内に『青山剛昌ふるさと館』もある。由良駅は2023年4月に無人駅化した極めてローカルな駅ですが、“コナンファンの聖地”としてインバウンドも含め多くの人が降車します」(前同)

 そして、この駅の発車メロディは当然のごとく『名探偵コナン』のメインテーマだ。「聴けば、なにか事件が起きそうな気分になってくる」という声もあるとか。 

 ただし、24年7月現在、駅舎は改修中なので、フルスペックのコナン駅を体験したい人は改修終了後がオススメだ(同年9月半ばを予定)。

 東武スカイツリーライン・アーバンパークラインの春日部駅(埼玉県)では、アニメ『クレヨンしんちゃん』(テレビ朝日系)の3代目オープニングテーマ『オラはにんきもの』が採用されている。

「春日部というのは、作者である臼井儀人さんのゆかりの地であり、『クレヨンしんちゃん』の舞台でもある。しんちゃんの聖地である春日部もインバウンド外国人に人気のようです」(同)

クレヨンしんちゃんの「ネネちゃんのぬいぐるみ」 ※撮影/編集部

 ところで、このような駅のご当地発車メロディは、いつ頃から登場したものなのだろうか。

 元鉄道マンで、都内ターミナル駅で10年の勤務経験を持つ鉄道・交通ライターのGATA_TETSU氏に話を聞いた。

「1951年には、旧国鉄の豊肥本線豊後竹田駅(大分県)で、地元出身の滝廉太郎が作曲した『荒城の月』を流していたのが元祖だという説があります。もっとも、そのときは、レコードを流していたそうですが」

 しかし、それはレアケース。鉄道駅で発車を知らせる音としては、ジリジリしたベル音が流れる時期が長く続いた。

「古いところでは、70年代に関西の大手私鉄・京阪電鉄がオリジナルの発車メロディを流した例があります。しかし、一気に広まったのは国鉄が民営化した80年代後期以降ですね。仙台駅や新宿駅、渋谷駅が始まりといわれます」

 そこから徐々にご当地発車メロディを採用する駅が増加。

「最近では、期間限定やイベント専用の発車メロディも目立っています。発車時だけでなく、“接近メロディ”といって到着時もメロディを流す駅もあります」(前同)

 ちなみに、発車メロディに選ばれる曲にはいくつかの傾向があるという。

「地域にゆかりのある人物や作品などに関連した曲が使用されることが一般的 です。JR池袋駅では本社・本店が池袋にあることから『ビックカメラのテーマソング』(原曲は賛美歌)が流れます。また、JR高崎線深谷駅では、地元特産品である深谷ねぎのイメージソング 『おねぎのマーチ』という曲が使用されています」(同)

 さまざまなバリエーションのある発車メロディ。夏休みの旅先で流れる曲に耳を傾けてみては。

 (※曲はいずれも2024年7月現在。鉄道会社の都合で変更になることがあります)