■後からトラブルになったときに「合意はあった」と“証明”する術はあるのか
ただし前出の佃弁護士は、「もちろん現実的には“限界事例”がある」と続ける。限界事例とは、解釈が分かれ得る事案のことを指す。
「その時は真意に基づく同意だったはずだけれども、その後の交際の過程でトラブルが生じ、“あの時は真意ではなかった”と主張されるようなケースはあり得ます」(佃弁護士)
仮に、男性が女性に「あの時は本当はイヤだった」と訴えられたとする。男性側が、「自分は真意だと思っていた」という事実は、どうしたら証明できるのか。
「事案によるでしょうけれども、それまでのやり取りや人間関係などといった交際の痕跡がどれだけ残っているかですね。LINEや2人で出かけた写真などといった履歴があればそこから推し量ることはできるでしょう。
たとえば3月に行為があって、4月から7月までずっと仲の良いやり取りがあったにもかかわらず、8月になっていきなり“3月の行為は真意ではなかった”と言われても、それは同意がなかったことにはならないのではないか……というような話です。
性行為をするほどの関係にある2人であれば、今どきなら、スマホのカメラで撮影した交際の様子やLINEのやりとりがあるでしょう。そういったいろいろな間接事実によって、“真意だったかどうか”は証明できるのではないでしょうか」(前同)
危ういのは“一夜限り”パターンだ。
「たとえば、合コンに行って電車がなくなり、仕方なく同じ屋根の下で翌日の始発電車を待ち、お酒が入った状態でそういう行為に至る場合、“真意”の同意があったとは言えない場合もあるのではないでしょうか。
また行為自体に抵抗はなかったとしても、意思の食い違いがあって、自分ではそれが交際の始まりだと思ったけれども、相手は一度限りだと思っていたことでモメるということもあり得るでしょう。これは刑法上の不同意性交罪に該当するわけではありませんが、真意の合意が疑われる例ではあります。
この場合、事後に双方が一度も会っていなかったり、片方が連絡をしているのに相手は返事を返していない状態だったりしたら、“真意の合意”があったと言えるかどうか疑問の余地が出てくるのではないでしょうか」(同)
とにかく重要なのは、“真意の合意”があることだ。
佃克彦
1964年東京生まれ。1987年早稲田大学法学部卒業。1993年弁護士登録(東京弁護士会)。
主な役職歴は日本弁護士連合会人権擁護委員会副委員長、東京弁護士会鋼紀委員会委員長、東京弁護士会人権擁護委員会委員長、法科大学院非常勤講師(公法・情報法)、最高裁判所司法研修所上席教官など。
現在、日本弁護士連合会人権擁護委員会人権と報道に関する特別部会委員。
著書に『名誉毀損の法律実務〔第3版〕』(単著・弘文堂・2017年)、『プライバシー権・肖像権の法律実務〔第3版〕』(単著・弘文堂・2020年)など。