■テーマに忠実で人物を深く描く脚本が素晴らしい
第5話は片思いをテーマに、自分にとって大切な人を描いた。柿田の片思いの相手・ミクちゃんは、登場しない。だけど、駅前のスーパーでレジ打ちをいている、子犬のようにかわいらしい女性であることが分かる。
せりふだけで人物を描き、柿田が語ることでミクちゃんへの恋心も感じられるというシナリオの妙が光る。登場人物を炬太郎、天、柿田の3人に絞ることで、それぞれのキャラクターの印象を強くし、丁寧に描写をしているのもポイントだ。なぜそうするのか、どうしてそうなったのか、といった動機に説得力を持たせて、感情移入がしやすくなる。登場する男性3人の感情が揺さぶられ、展開していくのがおもしろくて引き込まれてしまうのだ。
また対比を使って、“柿田が片思いするミクちゃん”と“炬太郎の同居人・天”、それぞれの違いを強調させた。ミクちゃんは、彼氏がいるのに柿田に期待を持たせた上に何時間も待たせ、10秒を待つことなく電話を切った。一方、天は炬太郎に「待て」と言われたことに嫌な顔をせず、何時間でも待っていた。
天は犬の生まれ変わりだから、ご主人様に「待て」と言われたら静かに待つしかない。その習性を使って、炬太郎への忠誠心や絶対的な愛情を表現し、大切な人は誰なのかを分かりやすく描いた。正味23分のドラマが深く、面白い理由には、確かな技術と愛情が込められたシナリオにある。俳優陣も人物への理解が深いのだろう、生き生きと芝居を楽しんでいるのが伝わってくる。本当に深夜ドラマなのがもったいない作品だと思う。(文・青石 爽)